手紙
はいけい
お元気ですか
あれからいろんな所で
いろんな暮らしをしてきました。
ここへ来て ようやく
落ち着くことができました。
春から畑も始めました。
慣れない野菜作りは不安もありますが
葉が少しづつ大きくなっていくのは
とても嬉しいものです。
毎日の草取りが大変ですけどね。
もうすぐ夏が来ます。
この辺り一面
ニッコウキスゲの花で黄色に染まります。
今夜は星がとてもきれいです。
時々、都会で暮らしていた頃を思い出します。
都会の夏はとても寝苦しく
よく電車の中で居眠りしたものです。
終点に着いたのも気づかず
何度も同じ駅を行ったり来たりしてね。
いつか大きくなったら、
一緒の部屋に住みたいね
そして夜遅くまでずっと
おしゃべりしていたいね
そんな子供の頃の約束を
忘れたことは有りませんでした。
憧れだった洋風の窓に赤いチェックのカーテン
二人で語った学校帰りの道にも
ニッコウキスゲの花が咲いていましたね。
先に村を出たのはわたしの方。
都会の生活は毎日が楽しいなんて嘘で
本当は星の数をかぞえるように
失敗の数ばかりかぞえてました。
絵を描いて暮らすなんて夢を
持たない方が良かったと
後悔したこともありました。
強がりばかりの手紙は
あなたに届くこともなく
雨に濡れ
風に飛ばされていきました。
今、わたしは一人
山で暮らしています。
洋風の窓とはいかないけれど
青い空に赤いチェックのカーテンが綺麗でしょう?
東京へ出て何年か経った頃、
仕事の帰りにあなたを見かけたことが
ありました。
あなたは駅のベンチに座り
本を読んでいましたね。
わたしは声をかけることもできず
ただ電車の窓から見ているだけでした。
あれから何度もあの町へ行ったけれど
あの駅へ行ったけれど
あなたに会うことはありませんでした。
あなたはもういないのに
そんなことばかり思い出します。
結婚し、子供が生まれてからは
台所のある部屋に引っ越しました。
一つのベッドにぎゅうぎゅう詰めで眠ったこともありましたよ。
それでもみんなよく笑ってました。
子供の足はとても暖かくて
胸の奥まで染み入るようでした。
幾度かの別れを経験し
子供たちも大きくなりました。
今は二人とも町で暮らしています。
昔のわたしのように
電車に揺られているのでしょうか。
クリスマスには帰ってくると言っています。
朝日と共に起き
夕暮れと共に仕事を終える。
雨が降れば針を持ち
空が晴れたら畑を耕す、草取りをする。
そんな生活をして3年たちました。
ナナカマドの実も色づいてきました。
この頃は昔のように絵なんかも
描いたりしています。
ここはとても早く日が暮れるので
移りゆく景色を少しでも残しておきたくて
描いてるのかもしれません。
そうやって
季節は静かに流れてゆきます。
一度だけ子供の頃住んでいた村へ
行ってみたことがあります。
あなたと二人、自転車に乗って走った道を
探してみましたが見つかりませんでした。
小さな石ころがジャリジャリしていて
どこまでもまっすぐ続いていた道。
あれは夢だったのでしょうか。
覚えていますか?
昔うたった歌を
青い空の歌を
毎日うたっていたのに
毎日空を見ていたのに
空の青さに気づいていなかったわたしです。
今年最初の雪が降りました。
出しそびれた手紙はたまってゆくばかりで
子供の頃の二人にはもう戻れないけれど
星を見て
ため息ばかりついていたあの頃のわたしに
夢はいつか叶うから
くじけずに前を向いて歩きなさいと
言ってあげたいものです。
大人になったからといって
利口になる訳でもなく
相変わらず
空を見あげているわたしですが
元気です。
明日は雪が積もりそうです。
