よそのネコに主役を取られた夜
夜散歩に出たら、帰り道で白ネコが思いっきり伸びていました。餃子とビールの話のはずが、今日のハイライトはあの伸びに。



夜、散歩に出た。目的は特にない。強いて言えば、歩くことが目的である。
耳には本好きの下剋上の十七巻。再生速度は1.8倍にしてある。本がない世界に生まれ直した主人公が、ないなら作ればいいと本を作り始める話で、気がつけばもう十七巻だ。井口裕香さんの朗読で、ローゼマインが領地のあれこれに奔走している。印刷工房の視察やら、染め物コンペやら、向こうはずいぶん忙しい。
こちらは徒歩である。速度だけは1.8倍だが、足は等倍だ。夜の坂道を、物語の三分の二くらいの速さで下っていく。
コンビニに寄った。レモンサワーとビールを買う。レモンサワーは檸檬堂のホームランサイズというやつで、缶に野球帽をかぶったレモンが描いてある。「ホームランください!」と書いてある。誰に頼んでいるのかはわからない。ビールはスーパードライ。それと焼き餃子。五個入りで、隅にタレの小さいプールが付いているタイプだ。
レジ袋が手にぶら下がった瞬間、散歩は「帰り道」に変わる。さっきまで自由だった足が、家に向かって歩き出す。
その帰り道に、ネコがいた。
白いネコだった。よその家の前の敷石の上で、思いっきり伸びていた。後ろ足を投げ出し、前足も限界まで伸ばして、身体が一番長くなる形で寝ている。夜の道で白は目立つ。遠くからでも「何か白くて長いものがある」とわかった。
近づいても、動かなかった。目を細めたまま、こちらを見もしない。警戒心というものを、どこかに置き忘れてきたらしい。私は袋を提げたまま、しばらく突っ立って見ていた。ネコは見ていなかった。イヤホンの中では、貴族院の二年生が始まろうとしていた。あちらの世界では派閥争いが激しさを増しているというのに、こちらの世界のネコは全身で無防備である。
温度差がすごい。
家に帰って、シャワーを浴びた。汗が流れると、身体の中で「餃子」の文字が急に大きくなる。歩いている間は散歩のおまけだったのに、今や主役である。人の中の序列というのは、シャワー一本で入れ替わる。
で、結局ビールと餃子だ。プシュ、と缶を開ける。餃子は五個。タレにつけて、ひとつめ。皮の焼けたところが香ばしい。ふたつめからは、もう何も考えていない。
オーディオブックの残りは十一分十三秒。中途半端に残ったが、これは取っておくことにした。十一分あれば、明日の夜もそのぶんだけ歩ける。ローゼマインの続きが、散歩の口実になる。
あの白ネコは、まだ伸びているだろうか。

*漫画は新宇佐美式六号で描きました。
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