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湯呑みの位置

7月13日はオカルト記念日らしい。1974年のこの日、『エクソシスト』が日本で初公開されたのだそうだ。せっかくなので、神様に一番怖い話をねだってみた。




スマホで「今日は何の日」を調べるのが日課になっている。7月13日はオカルト記念日だった。1974年のこの日、映画『エクソシスト』が日本で初公開されたことにちなんでいるらしい。

当時の日本は、ノストラダムスの大予言やらスプーン曲げやらで世の中がざわざわしていた時期で、そこにあの映画が来て、オカルトブームに一気に火がついたのだそうだ。

私はオカルトやホラーが好きで、エクソシストはもちろん、オーメンも13日の金曜日もひと通り観てきた。首がぐるっと回るのも、緑のゲロも、ブリッジで階段を降りてくるのも観た。観たうえで、まだ好きである。

で、せっかくの記念日なので、神様にねだってみた。一番怖い話を聞かせてよ、今夜くらい派手に怖がりたい、と。

神様はお猪口を口に運んで、しばらく黙っていた。それから言った。

「派手なものは、怖いというより、驚くだけだ」

じゃあ何が怖いのよ、と聞いたら、返ってきたのがこれである。

「同じ湯呑みが、朝と晩で少し位置が違う。それだけの話が、いちばん長く効く」

それだけ? と聞き返した。それだけだ、と神様は言った。誰も動かしていない、と本人だけが知っている。

グラスの氷がカランと鳴った。私は笑おうとしたのだが、頬のあたりが途中で止まった。窓の外の街灯りが、いつもより遠く見えた気がする。気のせいだと思う。たぶん。

ホラーを観てきた身としては、ちょっと悔しい。こっちは五十年分の悪魔もジェイソンも履修済みなのだ。それが、湯呑み一個の話で黙らされている。

でも思い当たってしまった。エクソシストを観た夜より、家の中で「あれ、ここに置いたっけ」となった夜の方が、布団に入ってからが長い。あれは誰にも話せない。話しても「気のせいでしょ」で終わるからだ。神様の言う「本人だけが知っている」は、そういうことなのだと思う。

な、なんだ脅かさないでよ、ともっと派手なのを要求したら、神様がふっと笑って言った。

「お前は今、部屋の隅を三回見た」

数えられていた。

グラスを持つ手に、いつもより力が入っていた。氷はもうだいぶ小さくなっていた。今夜はもう、湯呑みの位置を確認しないで寝ようと思う。

*漫画は新宇佐美式六号で描きました。

#今日は何の日 #オカルト記念日 #今宵も神様と一杯 #エッセイ #漫画


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