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『古墳時代の北極星を追え』第6話:祖父たちの足跡

「はぁ、はぁ……、大丈夫か、梓さん」 車を市街地のファミリーレストランの駐車場に滑り込ませ、五味はようやく大きく息を吐き出した。

「はい……なんとか。あの人たち、一体何なんですか? 人間じゃないみたいだった……」 梓はシートに深く身を沈め、激しく肩を上下させていた。

「『八方救済会』。数年前から、ネットのオカルト掲示板や都市伝説の周辺で、密かに噂されていた終末カルトだ。まさか、あの凍川大社の裏神事と直結していたとはな」

五味はダッシュボードから、自身の祖父・五味拓蔵が遺した古いスクラップブックを取り出した。 彼がオカルトライターになったのも、元を正せば、幼い頃に謎の死を遂げた祖父の「研究」を引き継ぎたいという執念があったからだ。

スクラップブックの黄ばんだページをめくると、そこには、かつて昭和の時代に高麗川流域で起きた、奇妙な事件の記事がいくつも貼り付けられていた。

『昭和五十二年、高麗川河口付近で大規模な地盤沈下。民家数棟が泥土に沈む』 『同時期、周辺住民の間で“集団幻覚”の訴え相次ぐ。夜間に巨大な蛇の鳴き声を聞いたという証言多数』

そして、その記事の余白に、祖父・拓蔵の独特の細い筆跡で、こう書き残されていた。

『凍川の結界は、五十年の周期で最悪の臨界点を迎える。大社単体での祈祷では抑えきれん。かつて朝廷は、臨界のたびに高麗川の河口に“生贄”を捧げて神の怒りを宥めてきた。水野の血筋はそれを取り仕切る役目だ。拓蔵、お前はこれ以上踏み込むな。これは、歴史の闇ではなく、現在も脈打つ“生きた禁忌”だ』

「五十年の周期……」 五味は呟いた。

「昭和五十二年から、ちょうど今、約五十年が経過している。つまり、今回の地鳴りや水位の低下は、過去最悪の臨界周期に入った合図なんだ」

「じゃあ、お父様は……その生贄の儀式を止めようとして?」 梓の目に、涙が浮かぶ。

「いや、おそらくその逆だ。お父様は、これ以上の生贄を出さないために、自分自身の命を、あるいは別の方法を使って封印を維持しようとしたんじゃないか。宗方は『お父様も自分たちの思想に近かった』と言っていた。それはきっと、お父様自身も『現行の結界システム(生贄を必要とする八方除)』に限界と疑問を感じていたからだ」

五味は梓の持つノートの、さらに先のページを指差した。 そこには、奇妙な幾何学模様の地図が描かれていた。凍川大社を中心に、周辺のいくつかの古い神社や祠が、網の目のように線で結ばれている。

「八方除の結界は、凍川大社だけで完結しているんじゃない。この高麗川流域に配置された『八つの補助結界(サテライト)』が支えているんだ。その第一の拠点が、さっきの河口の逆さ鳥居。そして第二の拠点は……」

五味は地図の文字を読み取った。 「『高麗川上流・黒蠅(くろばえ)渓谷の隠し穴』」

「黒蠅渓谷……」 梓が顔を上げた。 「そこなら知っています。子供の頃、父に『絶対に近づくな』と言われていた、地元の人間でも迷い込むという深い山奥の渓谷です」

「決まりだな。カルト連中が次の満月の夜に何かを仕掛けてくる前に、僕たちが先回りして、その補助結界の仕掛けを突き止める。祖父たちが何を見て、何に絶望したのか、その答えもそこにあるはずだ」

五味はエンジンを再び始動させた。 空はすでに完全に夜の闇に包まれており、不気味なほどに赤く染まった満月の一歩手前の月が、東の空から上り始めていた。

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