それぞれのHR 〜前期優勝
8回裏、ツーアウト。
ランナー2、3塁ながら4対5、このチャンスで得点出来なければ敗戦の色が濃厚となる、富山GRNサンダーバーズの攻撃。
今シーズンの独立リーグ・日本海リーグは1973年〜82年にパシフィック・リーグで採用された前・後期制が採用され、富山GRNサンダーバーズは前期優勝へのマジック1が点灯していた。
昨夜、小松弁慶スタジアムで行われた試合で、見慣れぬ、まるで安全ヘルメットの様な真っ黄色のバッティンググローブをしていた瀧野真仁選手を訝しみ、どうしたのかと訊ねると、
「どのグローブも穴が開いてしまい、ネチョネチョなのでチームメイトの倭吉選手に借りました。」
とサラリと答えた。
もうバッティンググローブの変えがないほどバットを振り込み、何よりもゲームへの勝利を切望する瀧野選手は、カウント1ボールからの2球目、中継カメラが追えないHRをレフトスタンドに放り込んだ。
逆転スリーランHR。
日本で唯一木製バットを作製するYANASEの重さ880g、長さ84.5cmの一本を使用し、スイングスピードにこだわってきた。
あまり感情を露わにに出さない彼が、右腕を高く振り上げ、ダイヤモンドを周る姿を見ながら空を見上げると、薄い雲がかかり少し淀んだ合間から青空が覗いていた。

口にするのは、いつも守備の話ばかり。
「ピッチャー達に勝ちをつけてあげられなくて、申し訳ないです。」
と呪文の様に繰り返す岩室真捕手は、シーズン前の約束通り、富山GRNサンダーバーズに所属して初のHRを放った。
故野村克也氏の『野村ノート』を擦り切れるほど読み返し、その一語一文をそらで言えるほど配球に磨きをかけ、次の回の相手バッターへの攻略を考えていたら、いつの間にやら自身の打席が回ってきてしまう。それで昨シーズンは終わってしまった。
体脂肪率とウェイトにこだわり、食事制限を重ねた今シーズン。
今でも頭の中はキャッチングとスローイング、フレーミング、リードでいっぱいだが、早出特打の結果がこの一ヶ月のバッティングに現れた。
5月21日、サヨナラHRを打たれ人目を憚らず号泣した彼は、決してあの時の悔しさを忘れない。
それがあのボストン・レッドソックス吉田正尚選手の様な、グングン伸びる一発になったのだ。

日本海リーグ前期優勝を決めた2本のHR。
いつの間にか自分の目は潤んでいたが、試合後サインを求めるファンに揉みくちゃにされ、次から次へと祝いの言葉をかけられる二人には、気づかれていない筈。
「ホント、良かったな。」
濃いめのサングラスをかけながら、そうつぶやいた。

(写真は全て筆者撮影)
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