県立統合病院「はり姫」が大成功で大赤字になる構図
「公立病院が大赤字」と聞くと、お客さんがいなくて閑古鳥が鳴いてるのかと思いますが、必ずしもそうとは限らないこともあるようです。
2022年に華々しく開院した姫路の最先端病院「はり姫(兵庫県立はりま姫路総合医療センター)」に関していえば、実態は真逆。外来は連日大賑わい、ベッドは常に満床近く、手術室もフル稼働。地域住民からも医師からも大絶賛される「大成功」の病院です。
それなのに、なぜか動けば動くほど「数10億円規模の大赤字」を叩き出してしまう。
ビジネスの常識ではあり得ない、この「大成功で大赤字」という奇妙な構図の裏側には、公立病院ならではの仕組みと、私たちが知っておくべき「数字のカラクリ」が隠されています。
1. 現場の頑張りが一瞬で消える「過去の借金」
まず、はり姫が大赤字になる最大の原因は、患者さんが来ないからではなく「新しくて立派すぎるから」です。
数百億円を投じて建てられた最新の建物や、ズラリと並ぶ最先端の医療機器。これらはすべて、会計上「減価償却費(価値が目減りしていく分を毎年コストとして計上するもの)」として、毎年の費用にドカンと乗ってきます。
現場の医師や看護師がどれだけ効率よく働き、患者さんをたくさん治療して「現場の医療(医業収支)」で利益を出しても、この巨大な「過去の投資のペナルティ」が毎年自動的に上書きされるため、トータルの数字は一瞬で大赤字へとひっくり返ります。お店で例えるなら、「毎日大行列でラーメンが完売しているのに、ビルを建てた時のローンのせいで大赤字」という状態です。
2. 儲かるメニューを自分で捨てた、公立の使命
普通のビジネスなら、利益率の高い「儲かるメニュー」に力を入れます。病院でいえば、比較的元気な人を対象にした人間ドックや、利益の出やすい軽症の診療などです。
しかし、はり姫は公立病院としての使命を背負って生まれました。そのため、かつて旧病院でやっていたような「儲かる健診部門」などは地域の民間病院に譲り、自らは「お金と手間はかかるけれど、地域に絶対必要な大変な医療」に特化しました。
24時間365日、絶対に救急車を断らない体制
民間では維持が難しい、採算の合わない高度な感染症対策
未来の医師を育てるための若手研修
これらは地域になくてはならない「効果」ですが、やればやるほど人件費や材料費という「費用」だけが膨らみ、病院の売上には1円もプラスになりません。
3. コスト爆発 vs 値上げできない「公定価格」
さらに追い打ちをかけたのが、近年の急激な物価高です。光熱費や医療材料の価格が跳ね上がり、開院当初の計画より毎年の支出が30億円近くも膨れ上がってしまいました。
民間企業なら「コストが上がったから商品を10%値上げしよう」ができますが、医療費は国が決定する「診療報酬」という公定価格。病院の独断で値上げすることが制度上できません。
「仕入れ値は上がったのに、売値は据え置き」の状態で、大繁盛すればするほど、コストの波に飲み込まれていくのです。
「赤字」という言葉に騙されてはいけない
ニュースで「はり姫が赤字!」と騒がれると、私たちはつい「経営努力が足りないのでは?」と思ってしまいがちです。
しかし、公立病院の「黒字・赤字」の数字は、実は行政のさじ加減ひとつ。過去の建設費をどれだけ病院の責任にするか、そして、民間がやらない医療を守るために「行政がどれだけ税金(繰入金)を補填したか」で、数字の見栄えはいくらでも変わります。
はり姫の赤字は、経営の失敗を意味するものではありません。むしろ、「地域の命の砦として、一切の手抜きをせずに役割を全うしている証拠」の裏返しと言えます。
「大成功なのに、大赤字」。
この歪な構図を解消し、私たちの安心の拠り所をどう守っていくか。それは病院だけの問題ではなく、これからの地域社会全体で考えていくべき、大切なテーマです。
