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同じ播磨臨海工業地帯なのに、なぜ姫路は人口が減り、明石は増えているのか

兵庫県の西播磨から明石にかけての海岸沿いは、製鉄・化学・機械などの工場が立ち並ぶ「播磨臨海工業地帯」の一角です。JR山陽本線と山陽電鉄が走り、神戸・大阪へのアクセスも良好。気候は温暖で、地形は平坦。どこをとっても「住みやすい条件」が揃っているはずのこの地域で、姫路市と明石市は真逆の人口トレンドを歩んでいます。

なぜでしょうか。その答えは、政策よりも前に「地形と合併の歴史」にありました。


1. 明石市の人口推移——12年連続増加の軌跡


明石市の人口は長らく29万人台で推移していましたが、2012年ごろを境に増加に転じ、その後12年連続で増え続けました。2020年の国勢調査では初めて30万人を突破し、30万3,601人を記録。中核市の中で人口増加率トップとなりました。2025年1月時点では30万6,505人に達しています。

増加をけん引したのは若い世代です。25〜29歳の転入超過が最も多く、30〜34歳、0〜4歳と続きます。子育て世代とその子どもたちが流入しているかたちで、2020年の合計特殊出生率は1.62と、全国平均の1.33を大きく上回りました。

ただし、2024年の人口増加数は475人と、ピーク時(2023年は1,356人)に比べて大幅に鈍化しています。増加の勢いには、少しずつ陰りが出始めていることも事実です。


2. 姫路市の人口推移——ピークを越え、減少が続く


姫路市の人口は2006年の「平成の大合併」を経て、2009年に過去最多の53万6,000人を記録しました。しかしそれ以降は減少が続き、2015年には53万5,664人、2020年には53万人、2024年1月時点では51万2,819人と、ピークから2万人以上を失っています。10年連続の減少で、そのペースは年々加速しています。

2050年には約43万人になるとの推計もあり、2020年比で約18.9%、10万人近い人口が失われる見通しです。


3. 姫路市の南北格差と平成の大合併


ただし「姫路市全体が均等に減っている」というわけではありません。

市内を南北に分けてみると、事情がまったく異なります。南部の臨海・平野部(飾磨・広畑・大津・網干エリアなど)では新興住宅地の開発が続いており、高浜・別所・糸引といった一部の小学校区では今後も10%程度の人口増加が見込まれています。一方、北部の山間部——旧夢前町・旧安富町・旧香寺町エリア、さらに離島の旧家島町——では、人口が半減する地区も出てくると予測されています。市内69の小学校区のうち、2050年に人口が減少するのは実に9割の61校区にのぼります。

この南北格差を生み出した大きな要因が、2006年の平成の大合併です。姫路市はこの合併で家島町・夢前町・香寺町・安富町の旧4町を吸収し、人口が50万人を突破、面積は約2倍の534平方キロメートルに拡大しました。ところが同時に、過疎化が進む山間部と離島を「市の責任」として抱え込むことになりました。

北部は交通インフラが乏しく、雇用も少ない状況です。若者は南部や他市へ流出し、高齢化が進んでいます。また、北部のインフラ(道路・学校・公共施設)を維持するコストが市全体の財政にのしかかっています。「南部で稼いで北部を支える」という構造が、少しずつ固定化されつつあります。


4. 姫路市の南部と明石市——驚くほどよく似た二つの都市


ここで注目したいのが、姫路市の「南部」と明石市の共通点です。

地形的な条件はほぼ同じです。どちらも瀬戸内海(播磨灘)に面した平坦な臨海部。JR山陽本線と山陽電鉄が通り、新快速・特急を使えば神戸・大阪まで30〜40分ほど。工業地帯が雇用を支え、区画整理された新興住宅地が子育て世代を引きつけています。

ではなぜ、明石市だけが人口増加を実現できたのでしょうか。

決定的な違いは一つ——明石市は、平成の大合併に参加しなかったことです。

2000年代に全国で進んだ合併の波の中、明石市は単独市制を選びました。その結果、明石市には山間部がありません。過疎地もありません。面積は49平方キロメートルとコンパクトなまま。北部の過疎地を支えるためのインフラコストを抱えることなく、財政を子育て支援などの政策に集中して使える環境が整っていました。

いわば明石市は、「姫路市の南部だけが独立した市」として機能してきたとも言えます。泉前市長の子育て支援政策が高い効果を生んだ背景には、こうした地理的・構造的な「有利さ」があったことは、見落とせない視点です。


5. 「子育て政策で人口増加」という語り方に潜むリスク


明石市の人口増加は全国的に注目を集め、「子育て支援を充実させれば人口が増える」という成功モデルとして語られてきました。ただ、この物語にはいくつかの注釈が必要です。

まず、明石市の人口増加は「日本全体の純増」ではなく、「近隣からの移転」が主体です。増加分の大半は兵庫県内、特に神戸市西区・加古川市・姫路市などからの転入超過によるものです。播磨地域の中で人口をやりとりしているという側面があり、日本全体の少子化に歯止めをかけているわけではありません。

次に、増加の勢いが鈍化してきていることも気になります。2024年の増加数は475人と、ピーク時の約3分の1ほどに落ちました。周辺自治体も子育て支援策を相次いで拡充しており、「明石だけが突出して選ばれる」時代は少しずつ終わりに近づいています。

また、財政面での課題も浮かび上がっています。子育て政策への集中投資の裏側で、インフラ整備が先送りにされてきたとの指摘があります。市役所新庁舎の建設(約200億円)、新ごみ処理施設(約800億円)、市民病院の改修(約450億円)など、今後10〜30年の間に総額1,000億円以上の更新費用が集中する見込みです。市自身の財政白書でも、2029年(令和11年)以降は収支がマイナスに転じる可能性に触れています。

さらに、子育て世代の流入が続いた結果、小学校の児童数が増え、仮設校舎の整備が必要になるなど、「人口増加に伴うコスト」も顕在化してきています。


おわりに——「明石モデル」が教えてくれること


姫路と明石の人口格差は、単純な政策の上手い下手ではありません。

姫路市は合併によって都市部と山間・離島の過疎地を一つにまとめたことで、財政的にも行政的にも大きな負荷を抱えることになりました。一方、明石市は地形的に恵まれたコンパクトな都市のまま、タイミングよく子育て政策を打ち出しました。その結果の差が、人口の数字として表れています。

明石モデルから学べることは、「子育て支援をすれば人口が増える」というシンプルな話ではないかもしれません。「地形的・財政的に有利な条件が揃った都市が、的を絞った政策を実行すれば、一定の成果が出る」——そんな読み方もできるのではないでしょうか。

そして、財政の持続可能性という問いに対する答えは、まだ出ていません。


参考:明石市「財政白書あかし2024」、姫路市将来推計人口(令和5年)、神戸新聞「明石市の人口増 際立つ周辺市町からの流入」(2022年6月)、明石市議会議員・石井ひろのり氏note(2025年4月)
 

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