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読めない新聞|ショートショート

「祖父の遺品から読めない新聞が出てきた」

取材班がその新聞を知ったのは、とある通報がきっかけだった。

問題の新聞は、表面上はよくある地方紙のようだった。
A2判、全12ページ、モノクロ印刷。発行日は2011年1月10日。

ただ、その文字がすべて判読不能だった。
正確には、「すべての文字が知っているはずの日本語の形をしているのに読めない」という。

取材班の1人があらゆる識者を訪ね、解析を試みたが
「高度に歪んだ日本語」であるとしか判定されず、内容の復元は不可能だった。OCRもまったく働かない。文字に見えて、文字ではないのだ。

遺族の女性は言う。

「祖父は晩年、この新聞を毎朝読む”ふり”をしていました。ページをめくって、うなずいたり笑ったりして。でも一度、孫の私が『なんて書いてあるの?』と聞いたら、突然泣き出したんです」

他にもこの新聞を持っているという報告が数件、全国から寄せられている。
それらは全て、2011年1月10日以前に発行された日付を持ち、そして全ての文字が「読めない」。
内容だけでなく、社名、発行所、記者名すらも。

一部の識者は、「これは報道ではなく“記憶の抜け殻”ではないか」と語る。

「何か重大な事実がこの国で起こった。けれど、人々はそれを忘れることを選んだ。その“忘却”が、形として残ったのがこの新聞ではないか」

この新聞を持つ家の多くには、失踪者がいるという共通点があった。
しかも、その多くはなぜか戸籍からも抹消されている。
家族の証言のみが残る存在たち。

読めない新聞は、何を伝えていたのだろうか。
持ち主は、何を知ってしまったのだろうか。

2024年4月現在、この新聞は6件が発見され、うち4件が国立公文書館の非公開資料として保管されている。
残り2件の所在は不明。
所持者は共に、「内容を読もうとした後に姿を消した」とされている。

この新聞を読んだ人物の音声記録が残っている。

「読める……けど、思い出してはいけない。思い出したら、ここにいられなくなる」

この記録を最後に、その人物の所在はつかめていない。

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