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本に挟まったチューリップを見るたびに、オランダでのあの散歩を思い出してしまう

「しおりにしておけば、大好きな本を読む度にこの旅を思い出すでしょ?」

ルーマニア人のエリカはそう言って、
一番可愛いチューリップのしおりを真剣に選んでいた。


チューリップが好き。
幼稚園くらいの頃からずっと。

形が不思議で、開き方も毎日ちがう。
たんぽぽも好きだけど、チューリップはなんだか特別だ。



あの日、オランダのアムステルダムでのこと。

当時の彼が気に入っていた国。

純粋な好奇心で、「そんなに魅力的な国はどんな国なんだろう?」と思い、
一人でじっくり観光すると決めていた。

でも空港からホテルに向かうバスを降りた瞬間、

お互いのエネルギーに引き寄せられるように、
自然とどちらからともなく、エリカと「一緒に散歩しない?」と声をかけあっていた。


まだ暑い季節、
蝶々柄のワンピースを着て、
散歩に出かけた。


水辺に自転車が並ぶスポットで
写真を撮りあったり、
チューリップがたくさん並ぶお店を巡ったり、


通りすがりに見えた、誰かの緑いっぱいのベランダを見てうっとりしたり、
風に揺れるチューリップにワクワクしたり、

オランダに来れた喜びを、ぎゅっと抱きしめてみる。


オランダは、チューリップの輸出量ナンバーワン。


行きの飛行機の中で同僚に「あなたはアムステルダムで何するの?」と聞かれた。


「チューリップを見に行く」って答えた。

そしたら、みんなから赤ちゃんを見守るような目で見られた。

ちょっと恥ずかしかった、
けど、なんだか心があたたかくなった。


無事にお気に入りのチューリップ柄のしおりを手に入れて、
オランダのビターバレンを食べた。

テラスで雑談しながらアペロールスプリッツをのんだ。

時間が止まったかのように、ただただ心地よい時間が流れた。


オランダの丸いコロッケ「ビターバレン」


気づけば、周りはすっかり暗くなっていた。

エリカとテレビの中継ごっこをして、
適当に観光地を紹介しあったり、
意味もなくスキップしながら、
たくさん歩いた。





あの頃、
私は人に優しくすることの"ちょうどいい距離感"がまだわからなかった。

飛行機に乗ったお客さん全員に心からHappyになってほしい。
誰も嫌な気持ちになってほしくない。

そう思っていたけど、いざ一人一人に心をこめて接すると、
スピード重視の飛行機の中で、どうしても遅れてしまう。

後にバランスの取り方を覚えたけど、
この頃は、何もかもわからなくて、もどかしくて。


だから、効率を重視して仕事をショートカットする同僚たちに、
「もっと早くやって」
「そんなのどうでもいいでしょ、「探したけどないです」って言えばいいじゃん」とか言われるたびに、
苛立ちを感じていた。

「仕事は仕事」と割り切って、やるべき仕事をさっさと終わらせて帰りたい人たちの中で、

自分の気持ちが伝わらないこと、温度が周りと合わないことが悔しくて。


結果として、なんとなく同僚たちと距離を置きたくなり、
冷たい態度をとってしまっていた。

「一人で行動した方が楽だ、どうせ分かり合えないし」と。


だからエリカと出会ったとき、

「こんなにも純粋に同僚と心が通じあって、一緒に散歩を楽しめるんだ」って
心から嬉しかったんだと思う。



エリカは
『アルケミスト』が好きなわたしに同じ作家さんが書いた別の本の話を熱心にした。

「いやー、やっぱりわたしはそういうピュアハートは守られるべきだと思うわ。あなたはマジで間違ってない」なんてあっさりと、

でもしっかりわたしの中に溜まっている苛立ちに寄り添ってくれながら。


そのあとはお互いの恋人の話をしながら、
帰りのウーバータクシーを呼んだ。


窓の外を見る。
アムステルダムの街が少しずつ遠ざかっていく。

「きょうバス降りた時に話しかけてみてよかった」

ぽろっとエリカはそういった。

それでわたしは力強くうなずいた。


生きてるとバチっとなにかが合って、
自然とつながるご縁がある



そういうのに会ったとき、

今まで悩んで悩んで、「自分のやり方って間違ってるのかな」って思ったこととか
そういう細かいことなんて全部忘れちゃう。


ただその人と出会えたことに感謝の気持ちが溢れて

その人といる自分のことまでちょっと愛おしく思える。


そしてそのことにまた、感謝が溢れて

心の中で静かに育ってしまっていた「冷たい氷のようなもの」が
少しずつ溶けていく。




旅からしばらく経って、
久しぶりに開いた本のページの間から落ちたチューリップのしおりを見て
わたしはまた、笑顔になった。

エリカの言った通りだった


本に挟まったチューリップを見るたびに、

あの日の散歩を、
あのあったかい時間を、
寄り添ってくれた安心感を、

「あの日はもう二度と戻ってこない」という
少しの切なさと一緒に

思い出してしまう。

miss you
未来






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