62 電機産業の凋落の言葉
ハイライト:
・馴染みのない新技術の可能性を探り、物事の本質を探る議論が不足。
・正誤がはっきりした安易な議論には熱心だが、意見の対立を生んだり、当事者の見識が問われたり、組織が目を背けている問題にあえて焦点を当てたりする議論を無自覚のうちに避けてきた。
・視点が似通った集団・異端を排除する傾向がある企業の姿、反対の意思があってもあるいは優れたアイデアがあっても「まあいいか」と口を閉ざす社員の姿
↓そして考えたこと
これらは独創性のある研究、および技術開発の障害になりますね。
昭和の時代では、たとえアメリカで評判になっていなくとも素直に耳を傾け、積極的に吸収した知識や技術が世界を席巻する大きな武器となった。この例として、日本発の光ディスク技術(ブルーレイ技術)がある。しかしシーズ(新しい技術)から生まれたブルーレイ技術はニーズ(市場での需要)を軽視しすぎ失敗した。
↓そして考えたこと
日本人は外国製の新技術を「学ぶ」ことに熱心でした。しかし大事なのは新技術を「作る」ことです。ブルーレイ技術は従来技術の改良(すなわち「学んだ」技術)にすぎず、独創性の高いシーズではありません。
学術分野でも「作る」研究が大事なのに、研究のロードマップを策定した学会もありました。予期せぬ結果が得られるのが研究のだいご味なのでロードマップとは相いれません。ロードマップからの逸脱こそが「作る」研究を意味します。
本文:
桂幹著、「日本の電機産業はなぜ凋落したのか」(副題:体験的考察から見えた五つの大罪)(集英社新書1153、集英社2023年2月)は昭和の時代に隆盛を極めた日本の電機産業が平成に入って凋落した理由について述べています。
著者はかつて企業で光ディスクメモリ技術に関わり、その実体験をもとに光ディスクメモリ、半導体メモリ、薄型テレビの産業を例にとり、凋落の原因を五つの大罪として挙げています。それらは「誤認の罪」、「慢心の罪」、「困窮の罪」、「半端の罪」、「欠落の罪」です。私自身もこれらの原因については断片的に把握していましたので著者の気持ちが心に沁みました。
これらの大罪の原因は組織としての企業の規模が大きくなりすぎ、技術開発の方向を迅速に決断して実行するという瞬発力が衰えたことでしょう。それをうかがわせる記述として、「馴染みのない新技術の可能性を探り、物事の本質を探る議論が不足。正誤がはっきりした安易な議論には熱心だが、意見の対立を生んだり、当事者の見識が問われたり、組織が目を背けている問題にあえて焦点を当てたりする議論を無自覚のうちに避けてきた。」とあります。
さらに「視点が似通った集団、異端を排除する傾向がある」企業の姿、「反対の意思があっても、あるいは優れたアイデアがあっても、「まあいいか」と口を閉ざす」社員の姿を指摘しています。これらは独創性のある技術開発の障害になりますね。
なお、昭和の時代では「たとえアメリカで評判になっていなくとも、素直に耳を傾け、積極的に吸収した知識や技術が、世界を席巻する大きな武器となった。」とのことです。確かに日本人は外国製の新技術を「学ぶ」ことに熱心でした。
しかし大事なのは新技術を「作る」ことです。この新技術として、日本発の光ディスク技術(ブルーレイ技術)があるとのこと。しかし「シーズ(新しい技術)から生まれたブルーレイ技術はニーズ(市場での需要)を軽視しすぎ失敗した。」と記されています。ブルーレイ技術は従来技術の改良(すなわち「学んだ」技術)にすぎず、独創性の高いシーズではありません。
以上の事情は学術研究にも共通しています。「学ぶ」研究ではなく、「作る」研究が大事です。それにもかかわらず、研究のロードマップを策定するという驚くべき活動をした学会もありました。
予期せぬ結果が得られるのが研究のだいご味なので、ロードマップは研究とは相いれません。いわば研究とはこのようなロードマップからいかに逸脱するかに価値があり、この逸脱こそが研究を「作る」ことを意味します。
以前、卒業研究を間近に控えた学生に対し教員が「半導体電子デバイスは社会を支える基盤技術なので、この研究をせよ」と説得したことがありました。しかし多くの学生はこれを敬遠しました。
「社会を支えるという責任を負わされるのはいやだ」というのが本音のようです。学生は夢のあるテーマについて研究したいのです。
それが将来どうなるかわからないようなものでも、また、就職活動に直接役に立たないようなものでも、人まねではない、オリジナルな研究にあこがれています。
すなわち、少なくとも学生でいる間は、「作る」研究をしてわくわくする体験をしたいのでしょう。納得のいく本音です。教員の側も「作る」研究を推進し、学生の本音に応えたいものです。
補足:
湯川伸次郎著、「2022年、「奇跡の名車」フェアレディZはこうして復活した」(講談社+α新書、講談社、2022年8月)は、日産の人気車種、フェアレディZを復活させた技術者による体験談です。上記の心躍る技術開発を実現させたストーリーです。上記の五つの大罪のうち、「誤認の罪」は、「よいものを作れば売れるだろう」というものでした。これに対し本書はフェアレディZという優れた機種を作ることに成功したことを記しています。電器産業の製品とは大きく異なる方向の例です。
