【創作イラスト物語】人魚姫は、嘘をつく

海が大嫌いな猫と
迷子のイルカが出会った
ひと夏の物語。
水彩画風のイラストと共に
クスッと笑えて
心が温かくなる話を書いてみました。
それでは、どうぞ。
*.。.。✽ ──── ❁ ──── ✽ 。.。.*

✽ ──── ❁ ──── ✽
僕は泳げない。
いや、正確にいえば
泳げるけど
絶対に泳ぎたくないんだ。
なぜなら
水がこの世で一番嫌いだから。
でも、防波堤から
海を眺めるのは大好きだ。
優しい釣り人が大好物の魚を
お裾分けしてくれるからね。
潮風に吹かれながら
僕はいつも思う。
(この底なしの液体に落ちたら
僕はきっと、泡になって
溶けてしまうんだろうな…)
僕には5歳の妹がいる。
毎晩、ママが妹に
読み聞かせている絵本があるんだ。
『人魚姫』
彼女は最後、海に溶けて
泡になってしまったらしい。

人間の子どもだって
「海に入ると目が痛い」
と泣いている。
あんな危険な場所
近づく奴の気が知れない。
今日も僕は、肉球が濡れないように
足元をちゃんと確認しながら
防波堤を歩いていた。
その時だ。
足元から切ない声が聞こえた。
「キュー……キュー……」
なんだか悲しくなって
僕もつられて鳴いた。
「ニャァ〜オ。ニャァ〜オ」
すると
下の影から声が返ってきた。
「キュー!
(お父さんと、お母さんはどこ?)」
おそるおそる覗き込んでみると
そこにいたのは、僕とは全然違う
でっかい魚みたいな生き物だった。

一瞬
「こいつ、食べれるかな?」
と思ったけど、僕は
その言葉をグッと飲み込んだ。
「君、迷子になっちゃったの?」
「うん。ちょっと面白そうだから
こっちに来たら、いつの間にか
パパとママがいなくなっちゃって…」
困ったな、と僕は思った。
泳げない僕にはどうしようもない。
続けて、その魚は言った。
「パパとママがね、人間っていう
生き物には捕まっちゃいけないよって
言ってたんだ。だから
ここに隠れてるの…」
人間。その言葉で
僕は思い出した。
妹がよく
「イルカたんを
見に水族館に行きたい!」
と騒いでる、でっかい画面(テレビ)に
映っていた生き物だ。
(…そうか、あそこ(水族館)に
連れていかれちゃうのか…可哀想だな)
「あのさ、君のこと、皆
イルカって呼んでるみたいだけど
本当の名前はあるの?」
僕が何気なく尋ねると
キューちゃんは首をかしげた。
「名前…?うーん…わかんない」
僕は少し考えて、ひらめいた。
「…キューキュー鳴くから
キューちゃんってどう?」
「わぁ、可愛い! キューちゃん♪」
キューちゃんは水面を
パシャパシャと叩いて喜んだ。
「じゃあ、じゃあさ
あなたの名前はなんて言うの?」
キューちゃんに
まっすぐ見つめられて
僕は少し照れながら答えた。
「ミル、だよ。本当はもっと
かっこいい名前がよかったけど
ミルクが好きだから
そう呼ばれてるんだ」
「へぇ〜、ミル……
ミルくんかぁ!私、好きかも♪」
こうして、僕とキューちゃんの
物語が始まった。

キューちゃんと話すようになって
何日か経った。
相変わらず僕は水が怖かったけど
キューちゃんともっと話したくて
少しだけ勇気を出して
みることにした。
防波堤から、海に
突き出たテトラポットへ
ピョンと飛び移る。
波飛沫が飛んできて
ヒヤッとしたけれど
グッと堪えた。
「ねえ、キューちゃん」
「なにぃ? ミルくん」
「……君ってさ
なんで溶けないの?
もしかして人魚の
生まれ変わりか何か?」
おそるおそる前足を伸ばし
キューちゃんの頭に
ツンツンと肉球で触れてみた。

「ふふ、キューちゃん
なんかゴムみたいだね」
キューちゃんは
「エヘヘ」
と嬉しそうに身をよじった。
「ずっと海にいるのに
本当に溶けないんだね。
そういえばさ
僕の家の画面(テレビ)に、君に
似た感じのやつが映ってて
人魚の生まれ変わりだって
言われてたよ。
…あっちの方が
ずいぶん変な顔してたけど」

「キュー?
でっかい画面ってなにー? 」
不思議そうに首をかしげていた
キューちゃんが何かに気づいて
声を弾ませた。
「って、ミルくん!
海のすぐ近くまで
来れるようになったんだね♪」
言われて気がついた。
僕は今、あんなに
嫌いだった海のすぐそばにいる。
慌てて防波堤の上に
飛び移りながらも
僕は少しだけ胸を張った。
「……ほんとだ。
僕、少しだけ成長したのかもね♪」
「うん! すごいよ、ミルくん!」
「今度はもっと
海の近くまで来れるかもね♪」
「そ、それは考えておくよ…」
僕が顔をしかめると
キューちゃんは楽しそうに笑った。
「また明日ね、ミルくん!」
そう言って、キューちゃんは
元の場所へ元気に泳ぎ去っていった。

次の日。
キューちゃんは
いつもよりずっと嬉しそうだった。
「ミルくん! パパとママの声が
聞こえたんだ! 近くまで
迎えに来てくれてるみたい!」
「そっか、よかったね…」
嬉しいはずなのに、なぜか
心がチクチクする。
そんな僕の気持ちを察してか
キューちゃんが水面で
パシャリと尾ひれを跳ね上げた。
「ミルくん、お礼に私のいる世界が
どれだけ素敵か、見せてあげるよ!」
次の瞬間
キューちゃんが海面を蹴った。
ザバーン!という音とともに
キューちゃんの大きな体が
夕日をバックに、空高く
ダイナミックに弧を描いたんだ。
「すごいや……!」
僕はその圧倒的な
美しさに感動して目を輝かせた。

……いや、待てよ。
ただ感動して終わる僕じゃないんだ。
キューのやつ…魚のくせに
あんなに飛べるなら、身体能力
ナンバーワンの
僕にだってできるはずだ。
僕は防波堤に立ち、キューちゃんを
見下ろしてニヤリと笑った。
「よーし、見てて!
僕だって
宙返りくらいできるんだぞ〜!」
フンッ!と気合を入れて
僕はその場で華麗に宙返りを決めた。
……はずだった。
着地の瞬間、キューちゃんが
上げた水しぶきで
防波堤がぬるりと濡れていたんだ。
「あ」
ツルッ。
ドッパーーーーーン!!!
「うわぁぁぁぁ溶けるぅぅぅぅ!!
僕の肉球が、尻尾が
泡になって消えていくーーー!!」

大パニックになった僕は
狂ったように前足を回転させた。
世に言う超高速犬かきである。
必死に泳いでいると
下からツンツンと
あのゴムみたいな感触が
僕の体を押し上げた。
キューちゃんが背中で僕を受け止め
そのまま防波堤の
上へと押し上げてくれたんだ。

「ぷはっ! ゲホッ、ゲホッ!」
僕は、ハッと気づいて
自分の体を確かめた。
……あれ? 右足もある。左足もある。
尻尾も、濡れて
ボロ雑巾みたいになっているけど
ちゃんとくっついてる。
ブルブルブルッ!!!と
激しく体を震わせて
水を飛ばしながら
僕は空を睨んだ。
「なんだ…人魚姫の嘘つき。
全然溶けないじゃん!」
海面からは、キューちゃんが
「キュー、キュー!」と
楽しそうに笑う声が聞こえる。
すると
遠くでキューちゃんのパパと
ママがキューちゃんを
呼ぶ声が聞こえた。
キューちゃんは
笑顔で尾びれをふっていた。
「ミルくん、バイバイ!
泳ぐの上手だったよー!」
「……うるさいやい!
早く行きなよ、元気でね!」
僕の友達は、広い広い
海へと帰っていった。
相変わらず水は嫌いだし
濡れるのは真っ平ごめんだ。
だけど、キューちゃんが飛んだ
海のきらめきは
ほんの少しだけ綺麗だと思った。

あれから…
キューちゃんが
いなくなって数日がたった。
今日も僕は、濡れないように
足元をしっかり確認しながら
防波堤の上を歩いている。
またいつか、あのゴムみたいな
頭に触れる日を
ほんの少しだけ期待しながら。

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こちらの記事は
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それでは、また∞
あなたの明日が心ほどける
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