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サンキュー、マイ貧乳。草食とプールとブラジャーと私

自慢ではないが、私の胸は小さい。

どれくらい小さいのかというと、下着屋さんでブラジャーを購入しようとすれば、Aカップでも余るレベルだ。

いつも下着屋に行くと、カーテンをめくって現れたスタッフのお姉さんから、

「大丈夫ですから……サイズに合うブラジャーは絶対にありますから!」

と力強く宣言されることが多かった。

当時の私は、30代前半。体重は44〜45キロ。無駄なぜい肉のないことが、あの頃の自慢だった。

下着屋に行くと、スタッフのお姉さんは、決まって私の背中にゴツゴツと容赦なく両手を突っ込み、どこにあるかもわからない背中の肉を必死にかき集めては、ブラジャーの隙間へ移動させようと奮闘し始める。なのに、私には肝心の「無駄なぜい肉」がない。だから、肉をブラジャーの中へ寄せることができないのだ。

スタッフのお姉さんは、そんな私に何度も「諦めないでください」と返してきた。いや、こっちは別に諦めていないわけでも。諦めたくないわけでもないんですけど。

(なんならこっちは、胸の大きさについてはとっくに諦めてるんで、ただサイズに合うやつを売ってくれたらいいんですよ)

喉元まで出かかったその言葉を、私はいつも飲み込んでいた。向こうもプロの商売人だ。プライドがある。きっと、少しでも胸を大きく見せたいという世間の女子たちが抱える乙女心に寄り添ってくれているのだろう。……というよりは、おそらく

「Aカップ以下のサイズが店にないから、なんとしてでも私の肉をブラジャーへ詰め込んで、とにかく1枚でも売るしかない」

という、大人の事情もあったのかもしれない。やがて私は、スタッフの方からの「余計なお世話」が面倒と感じ始め、下着を試着することを避けるようになった。商売とは、相手の欲求を知ることが大切。ヒアリング力が求められる。けれども、下着の世界では「胸」を見て、スタッフの方が勝手に色々と察しようとしてくる。それが、貧乳の私にはたまらなく面倒だった。

今は、ユニクロのブラトップばかり愛用している。同時に、女性としてこれでいいのかと思う時もある。気分だけは、いっちょ前にCMの吹石一恵さんだ。

婚活歴は15年。参加した合コンは1000回以上。地元ではコンパの女王とも呼ばれ、そのテーマを元に大手メディアで連載したこともある。

そんな私の胸は、かつて合コンや街コンの戦場で、武器になったことなど、一度もない。

では、それが致命的なデメリットだったかと言えば、答えはノーだ。意外と婚活男子が見ているのは━━胸の大きさよりも、自分の話を聞いてくれるか、だったように思う。

「この子は、僕の話を笑顔で聞いてくれるか」
「こんな僕でも受け止めてくれるか」

心配そうな様子で、私の顔を覗き込む男子が、婚活市場にはすこぶる多い。世の男子は、女子が思う以上に自信がない。なのに世の女子は、自信のある「俺についてこい系男子」に惹かれがちだ。ちょっと自信がないくらいの方が、男子は可愛いし、真面目な方が多いのにね。って、私の好みはさておき。

むしろ胸が小さいことで、目の前の男子が私の胸より、顔や目をみてくれている気がした。気のせいかもしれないけど。サンキュー、マイ貧乳。

ところが、である。私の貧乳市場には、時折厄介な外敵が襲来することもしばしば。とくに恐ろしいのが、マルチ商法系の下着屋女子だ。

ある日のこと。マルチ商法系の下着ビジネスにドハマりした女子から、連絡が届いた。普段は滅多にメールなどしてこないのに、一体どうしたものか。合コンの誘いだろうか。恐る恐る、ブルーライトの光る画面をチェックする。

「あのね、みくちゃんにしかこんな話しないんだけど……。胸が小さいのはね、着ている下着が合ってないからだと思う。ちょうど今、すごいキャンペーンがあって……」

出た。定期的にやってくる、マルチ女子の勧誘商法。押しに弱い私の元には、まるで定期購入のように、マルチ系にハマった女子からサプリメントや、美顔器、高級な下着の勧誘が届いた。マルチ商品・サービスの平均価格帯は、基本的に30万円ほどである。逆に、これらの勧誘話を聞くことが多すぎて、迂闊にも断るのが上手くなってしまった。おかげ様で、一度も購入に至ったことはない。大体断ると、決まって彼女たちは

「あなたの人生は上手くいかない」
「人生は何も変わらない」
「あなたのことを思ってくれる人は、誰もいない」

と、私の人生を全否定してきた。

そんな人に関わったら、最後。ずっとイエスマンでいないといけない。そうなると、私の人生が不幸になる。彼女たちとは、今後も全力で距離を取っていきたい。

***

下着屋マルチ系女子に勧誘されるたびに、「私の貧乳では、何をやっても無駄です」と断った。こんなこと、久しぶりに連絡するあなたに、私の口から言わせないでほしい。

けれども、マルチの押しは強い。彼女も負けていなかった。

「背中のぜい肉を胸にもっていけば、あなたでも大丈夫だから」
「姿勢が悪いせい。姿勢をなおせば、胸はきっと大きくなるから。諦めないで」

何度もハッパをかけてきた。私は当時、細くて44キロしかないのに、そう熱弁を振るう彼女は、大抵私より一回りふくよかだ。あなたとは違う。勝手にぜい肉があることにしないでほしい。なんなら、下着のお金は別に払っても構わないので、人のぜい肉と姿勢の悪さと貧乳を、金輪際。放っておいてほしい。

それだけじゃない。あれは、20代前半の当時、親友とプールに行った時のこと。地方のこぢんまりとしたプールに親友とでかけた。そこには親友、私と、退屈そうにパイプ椅子に座る監視員のお兄さんしかいない。

私はお気に入りの、赤いセパレート水着を身にまとい、意気揚々とウォータースライダーの階段を駆け上がった。本日は晴天なり。頂上から見下ろす景色は最高だ。胸元は貧乳なので心もとないが、気分は最高潮。「行くよー!」と叫び、勢いよく滑り降りる。

曲線を描くウォータースライダーを、水しぶきをあげながら猛スピードで滑走する。そしてガツンと着水した、まさにその瞬間だった。

あいにく、私の胸には、水圧の衝撃を受け止める「ストッパー=膨らみ」がなかった。そうなると、どうなるか。勢いよく滑った結果、水の抵抗をまともに食らった上の水着が、「スポーーーン!」と頭の上へ吹き飛んだのである。

「プッ……!!」

プールサイドで待っていた親友が、口元を手でおさえて笑いを堪えている。慌てて水中に身を潜めながら、恐る恐る監視台を見る。お兄さんは、微動だにせず、明後日の方向を向いていた。けれど、口元が少し引きつっている。

さては、拙者。見たな。

正直、見られたこと自体はどうでもいい。それよりも、「水着が吹き飛ぶ瞬間」と同時に、どうしようと狼狽える瞬間。そして、お兄さんが見たかどうかを気にしてしまう自分の様子を見られる方が、遥かに恥ずかしい。お兄さん、あの時見ないふりをしてくれて。大人の対応をしてくれてありがとう。

胸が小さい。それは長い間、私にとって「コンプレックス」だった。

高校生の時は、お小遣いを貯めて、そのお金で「胸を振動させて、胸を大きくさせる機械」を分割で買おうとしていた。母親に「買ってもいい?」と相談したら「くだらないことを考えるのは辞めなさい」と、本気で叱られた。私は本気だったのに。

けれど、物事にはすべて裏と表、メリットとデメリットがある。40年以上長く生きて来て、胸を通じて悟ったこと。

私の胸が小さいという「弱み」につけこんできたのは、数年ぶりに「お久しぶりー」と連絡してくる、マルチ系の下着屋女子だけだった。あとは、ウォータースライダーの衝撃にすこぶる弱いということを知った。恋愛や婚活のシーンでは、逆に胸目当ての男子が近づいてこなかった。

胸より顔をみて、話を聞いてくれる人が多かった。肉食より、草食男子には割とモテたかもしれない。そもそも草食男子は、基本的に体の線が細い。細さや、食べられないことに悩んでいた人も多く、

「たくさん食べられるように、今頑張っているんだ(逞しく見られたいみたいな)」

という悩み相談を受けたことも、一度二度ではない。細い人は、細い僕を理解してくれるはず、みたいな。類は友を呼ぶみたいに見えたのだろうか。まぁ。結局、結婚したのは肉食系でふくよかな夫だけれども。

人生、生きていれば「どうして自分だけ、物事が上手くいかないのだろう」と、途方もなく落ち込む日もある。週刊誌のグラビアをみては、ふくよかな胸をしてニッコリ微笑む女子をみて、どうして私の胸は小さいのだろうと塞ぎ込んだ日も、星の数ほどある。

けれど、そんな時こそ、コインをひっくり返すように考えを改めてみることが大切だ。たとえば、

「胸が小さいということは、胸じゃないところを見てもらえる機会が増えるということでは?」

と、思えたらいいのではないか。

人は物事が上手くいかない時、「どうして自分ばかり……」と落ち込んでしまう。上手くいっている人と比べて、自己卑下してしまうこともあるだろう。

でも、それは一辺倒でしか物事を見ていないからこそ。上手くいっているように見える人だって、もしかしたら笑顔の裏には影が潜んでいるかもしれない。あなたが上手くいかない時も、本当は誰かから見て「いい人生」に見えているのかもしれない。

むしろ、悩んだ時こそ、裏を返して「ポジティブ要素」を探してみるといい。胸が小さくて悩んでいるなら、胸が小さいことのメリットを探してみる。肩こりになりづらい。ブラジャーを買う必要がないので、ユニクロのブラトップでも無問題(モウマンタイ)。

それから、世の中生きていると、貧乳好き男子は意外と多い。巨乳好きなオラオラ系肉食男子にモテないなら、陰日向でひっそりと咲く草食男子の中にあなたのことを好きな人がいるかもしれない。

そういう考え方や、生き方ができれば━━生きることはきっともっと楽になるはずだ。

【完】



※私が会長をつとめる「東海note支部」のお題にチャレンジ。テーマはプールということですが、ほぼ「貧乳」の話をしました。

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