音と、曖昧な地層の旅へ【Sony Park展 2025】
音楽は、旅だ。
このコピーを聞くなり「なんて鮮烈なフレーズなのか」と思った。この言葉は、今をときめく人気アーティストVaundy(バウンディ)のプログラムテーマである。
Vaundy(バウンディ)。24歳。作詞、作曲、アレンジを全て自分でこなし、デザインや映像のディレクション、セルフプロデュースも手掛けるマルチアーティスト。
2019年春頃からYouTubeに楽曲を投稿開始。「東京フラッシュ」「不可幸力」など、耳に残るメロディーを持つ、幅広いジャンルの楽曲を発表すると、瞬く間にSNSで話題に。
サブスク令和時代の象徴的な存在として注目を集めており、16曲が1億回再生を突破、日本ソロアーティスト1位の記録を打ち出している。
「Sony Park展 2025」では、Vaundyのイベントブースは地下2階。地表の断面図のように幾多にも重なる木目調の壁は、「僕の心の曖昧な地層」を表現しているらしい。

心は確かに複雑だ。
喜び、悲しみ、楽しさ、怒り。それら一つとして一辺倒なんかじゃない。感情はグラデーションのように曖昧で、複雑。だから人の心を理解するのは難しい。
けれど、誰かの心に潜む地層の1つに触れただけでも、私たちの視野はひとつ広くなる。
イベント会場には所々にオレンジカラーのテープを模したdecorationが散りばめられており、いずれもキャッチーな言葉が書かれていた。
その中でもとくに心に響いたのが、
「奥歯がさらに、後ずさる」
だろうか。私の発想からは、到底思い浮かばないフレーズだ。どういう意味なのか。奥歯が後ずさるほど、音楽との出会いは衝撃という意味か。それとも。受け取る人によっては、強烈なメッセージなのかもしれない。
人の言葉に触れると、自分の中の「文字の世界」が育っていくのを感じる。だから言葉は面白い。今の世は、成功者に対して「この人の言葉だから、きっとそうだ」と耳を傾ける人が増えた。
確かに成功者の意見は参考になる。けれど絶対ではない。まず目線が違う。挑戦できたタイミングも、取り巻く環境やスペックも違う。その場合、同じことを試してもいい結果が出るとは限らない。
自分にとって参考になる話は、天高い位置に座る人より案外隣の人だったりする。もしかしたら、それは自分とは畑の違う世界の人だったりするのかもしれない。
だからどんな言葉も、ハッとするものがあれば拾っておきたいと思う。
——そう。決して人を選ぶことなく、だ。
音楽は、旅だ/Vaundy
Vaundyのブースでは、彼が選曲した約200曲の楽曲を、自由に選んで聞くことができる。
曲は小田和正、ユーミンなどの大ヒットナンバーから、海外の楽曲、初めて耳にするような曲などなど。ジャンルや年代は玉石混交。
せっかくの機会なので、目にしたことのないタイトルのものをなるべく選ぶようにした。
曲は、スタッフから渡されたヘッドホンのコンセントを差すと聴くことが可能だ。曲を選び、ヘッドホンを耳にして目を閉じる。

銀座にいるはずなのに、見たことのない景色が広がるのを感じる。そして曲を変えると、あっという間に違う世界へトリップする。

音楽は不思議だ。
嗜好、年代さえも、選曲した曲に興味を少しでも持てば、あっという間に垣根を越えてしまう。気になる曲に出会えたら、そのアーティストの他の楽曲まで気になってしまう。

半導体は、SFだ/YOASOBI
「Sony Park展 2025」は、ビルの階級によってイベント内容が異なる。3階のブースは、「半導体は、SFだ。with YOASOBI」。
プログラムでは、NHK総合 『YOASOBI 18祭(フェス)』のテーマソングとなった「HEART BEAT」の楽曲を用いた「HEART BEAT:Resonance」という来場者参加型の音楽体験が可能だ。
「HEART BEAT」のテーマは、心音。このイベントでは、来場者の心拍をセンシングした上で、「心音オブジェクト」を作ることができる。

心音は、人差し指を数秒置くだけ。生成された心音オブジェクトは、スマートフォンで持ち帰ることもできる。
作られた「心音オブジェクト」は、YOASOBIの楽曲と共にスクリーンに映し出される。

薄暗い闇の中に、幾多ものカラフルな光や、カラフルな参加者の心音オブジェクトが流れる。ふと、ネオンの輝く街へYOASOBI(夜遊び)に訪れているような気持ちになる。
私たちは必死になって、自分の名前が書かれた心音オブジェクトを探す。
見つけた途端、思わず足で踏みつけてみるものの(映像なので動きを止めることはできない)、その途端すぐに流れてしまう。止められないとわかってるのに、掴もうとしてしまう。なんだかまるで人生みたいだ。

その他にも、会場にはYOASOBIのAyaseとikuraの心音オブジェクトが登場したり、

来場者と「心音オブジェクト」の動きをセンシングして、床面が振動するといった特別な仕掛けも。細かい部分に仕掛けが散りばめられていて、イベントそのものが大変凝っていると感じた。
ファイナンスは、詩だ。/ with 羊文学
ビルの4階には、イベントブース「ファイナンスは、詩だ。/ with 羊文学」を体験できる。メインプログラム「Floating Words」は、羊文学の楽曲「more than words」「光るとき」が響き渡る空間に、大型スクリーンに羊文学の歌詞と映像が映し出される。
映像には、このプログラムのために特別に収録された塩塚モエカの声に導かれ、歌詞が淡々と読み上げられていく。
朗読の中で気になったフレーズは、「文字は未来に繋がっていく種」という内容のもの。
文字を残すことで、それが後世に渡り受け継がれていくこともある。ならばせめて、美しい言葉や。誰かが目を通して心に残るものを少しでも多く選びたい。羊文学の言葉に触れながら、そんなことをぼんやり思った。
地層のように果てしない世界で戦うために
私は今、表現の世界に近い場所でありつつも、それが走り出すことを許されない仕事をしている。なんの仕事をしているのかと聞かれたら「ライター」なのだろうけど、そうじゃない仕事も最近は増えてきた。
言葉の選び方、表現力は試されつつも、決して好きなことを書く訳ではない。顧客の求めるものに近づけるよう尽力する。けれど、これも所詮私の中の正義であり、誰かに押しつけるものではない。正義はぶつけた時点で、人によっては刃に映る時もある。
人によっての正解や正義は千差万別。だからこそ、この世界は面白いはずだ。
世界はきっと、地層のように深くてはてしない。だから私は潜るように、いろんな言葉と声、音楽。景色。そして世界に触れていきたい。
