#創作小説 世界線
今日という日
朝、目が覚めた瞬間に「ああ、やっぱり」と思った。
昨日、最後に送ったLINEは未読のまま。既読になって返事が来る可能性は限りなくゼロに近い。
彼女に振られた。というか、返事すらないというのはもうそれ以上に冷たい拒絶だ。
それが現実だった。

電車に揺られながら、ふと頭に浮かぶ。
「もし、あの時違う言葉を選んでいたら、違う未来があったんじゃないか?」
現実の結果はもう分かっている。
けれど、俺の頭の中では、何度も分岐する「もしも」の世界が生まれては消えていく。
それはただの妄想かもしれないが、今日に限って、それがやけにリアルに感じられた。
もう一つの世界線
世界は同じように始まる。
彼女と口論になった夜…だが、その時俺は、深呼吸してから言葉を選んだ。
「ごめん。俺、ちょっと焦ってた。君の気持ち、ちゃんと聞かせて?」
彼女は驚いた顔をして、それからゆっくり話し始めた。
苛立ちも、不安も、寂しさも。
そのすべてが、俺の無理解によって積もっていた。
その夜、俺たちは朝まで話した。
ただ話しただけだ。
だけど、それだけで世界が少し優しくなったように感じた。
数ヶ月後、同じベンチに座って、俺は彼女の手を握っている。
もうすぐ春。
桜が咲くのを待ちながら、俺たちは新しい暮らしの話をしていた。
そんな世界線も、どこかに存在している気がした。

戻る現実
「次は、新宿〜、新宿〜」
車内アナウンスで意識が戻る。
LINEはやはり未読のままだった。
でも、少しだけ気持ちは軽くなっていた。
もうひとつの自分が、どこかで幸せをつかんでくれているのなら、現実の自分だって、少しは前に進める気がする。
ドアが開いた。
人波のなかへ踏み出す瞬間、心のどこかで小さく思った。
「今日という日も、明日へと続く、無数の世界線のひとつだ」
ー 完 ー
