見出し画像

双月の森 【第15話】

出立前夜、中庭に長机が出された。大皿に豪快に盛られた肉料理が並び、エールや蜂蜜酒の酒樽が出され、騎士団員たちが思い思いに席についた。
壮行会と呼ぶには質素だったが、集まった顔は明るかった。

焚き火が数カ所に焚かれ、夜空の下に笑い声が響く。

アリスは最初、端の席に遠慮がちに座っていた。
しかし隣に座った若い騎士が、料理を差し出しながらにこやかに話しかけてきた。
「アリスさん、魔物をすごい光で吹き飛ばしたって聞きましたよ!」
「えっ、どこから聞いたんですか?!」
「ベルンって商人が町で話してたみたいで、ルシさんとアリスさんの噂、広まってますよ!」
「そ、そんなこと……」
アリスは困惑し、目の前の飲み物を一口飲みこむ。
「……?!」口に広がる苦味に驚く。
異物感があってうまく飲み込めない。どうやら蜂蜜酒だったようだ。

そっと机にカップを戻すと、向かいの席から別の騎士が声をかけた。
「封印魔法って、どんな感じなんですか? すごく難しそうですけど……」
「難しいといえば難しいですけど……感覚としては、破けた布を縫うような感じです」
「へえ!」騎士は身を乗り出した。
「想像できないけど、すごそうです!僕は剣しか扱えないからなぁ」
アリスはすごいという言葉にきょとんとした顔をする。騎士は不思議そうにアリスを見つめる。
「だって、アリスさんしか亀裂塞げないんですよね?」
「えと……わたしは剣を扱えないので、同じです!」
今度は騎士がきょとんとする。そしてふふっと一緒に笑いあった。

「わたしこの前……初めて魔物と戦ったんですけど、足が震えてしまいました」
「えっ、そんなに強いのに?初めてですか?」
「……はい」
強いのかどうかはわからないけれど、曖昧に微笑んだ。
騎士たちが顔を見合わせ、それから笑った。親しみのある、仲間を迎えるような笑いだった。
「だったら今夜はちゃんと食べて飲んで、気持ちを整えてください。明日からがんばりましょうね!」
「はい!」
弾けた笑い声が、その場の空気をふわりと和ませる。
アリスの顔にも自然と笑みがこぼれた。
騎士が勧めてくれた肉料理は香ばしく焼かれていて、とても美味しかった。

ルシは少し離れた場所に座っていた。何人かの騎士が話しかけ、ルシは短く答えていた。
素っ気ない態度だったけれど、騎士たちは陽気に話しかけ続けた。
気の良い人たちだなぁとアリスは嬉しくなる。
ふとこちらに視線を向けてきたので、小さく手を振ると、ルシは口の片端を上げて笑った。

セレーナがグラスを持ってアリスの隣に腰かけてきたのは、夜も更けた頃だった。
「馴染めてるみたいだね」
こくんとセレーナがグラスの中身を一口飲むと、甘いお酒の香りが漂う。
(セレーナさんは大人だな……)少しどきどきする。
「みなさんが話しかけてくれるので、楽しいです」
「うちの団員は気のいい奴らだろう?」
セレーナは爽やかに笑った。
「もちろん戦闘力も保証するよ」
アリスはこくんとうなずく。

「セレーナさんは、今まで何度も戦場へ出てきたんですか?」
「……そうだね。規模は色々あったけど」
セレーナは何かを思い出すように焚き火を眺めている。
「魔物相手と人相手では違うからなぁ……」
「…………」
「ここまで大きな亀裂は五十年ぶりだろう?正直、どうなるかわからないんだ」
落ち着いた、静かな声だった。
「……それでも、戦うんですね」
アリスは覚悟しきれていない自分を思って、目を伏せる。
「怯えて立っていたら、傷つく人たちが増えていくだけだからね」
あっさりと言うと、セレーナは涼やかな青い瞳でアリスを見た。

「怖いかな?」
「……怖いです」
アリスは正直に言った。
「でも、自分に出来ることがあるなら……やりたいです」
セレーナはしばらくアリスを見ていた。それから静かにうなずいた。

「一歩ずつ進もう。誰かの命も自分の命も、大切にするべきだ」

アリスはセレーナの目線を追って、焚き火の向こうを見た。
騎士団員たちが笑っていた……。
セレーナは愛おしいものを見るようにそれを眺めている。
ジョッキを傾け、肩を叩き合い、大声で歌い始める者もいた。うるさくて、でも温かい歌だった。
リュートを弾きながらおどけている金髪の青年がにかっと楽しそうに笑う。
アリスは小さく笑い返す。

──ここにいるみんなが、笑顔で戻れますように。

心の奥で、静かにそう思った。
自分の魔法が、この人たちを守れたらいいな。

焚き火が、夜空へ向かって火の粉を飛ばしていた。

今日も空には双月と満天の星が瞬いている。

ルシが少し離れた場所で、空を見上げているのが見えた。
アリスの目線に気づくと、ルシもこちらへ顔を向ける。
深い藍色の瞳に、揺れる炎が映り込んでいる。

「ルシ……」

暫くの間、ふたりは見つめ合っていた。

アリスの瞳が揺れ、風が髪を撫でていく。

何かがざわざわと胸を騒がす。

そっとアミュレットに触れ、この旅の無事を星に願った。



本日もお疲れさまです。

アリスが騎士団たちと打ち解けるお話でした。
爽やかできりっとした美人のセレーナさんが好きです。
王宮騎士なのでみんなエリートなんですよね。
それが動くということは国の危機ということです。

今回のBGMはEd Sheeranさん。
アコギと即興のサンプリングで歌う姿を見て、驚いた記憶があります。
CelestialのMVが大好きです!ポケモンいっぱい!

それではまたどこかで。

いいなと思ったら応援しよう!