「世襲議員は悪」という思考停止。問題の本質は世襲そのものではなく、不公平な"世襲税制"にある。
はじめに:その「世襲批判」、本当に本質を捉えていますか?
「また世襲か」
「政治家の息子は楽でいいよな」
日本の政治のニュースを見るたび、私たちは、つい、そう呟いてしまいます。
特定の政治家一族が何代にもわたって議席を独占する「世襲議員」の存在は、多くの国民にとって、民主主義の健全性を損なう象徴のように映るでしょう。
しかし、ここで一度立ち止まって考えてみたいのです。
私たちは「世襲」という言葉の響きに囚われ、思考停止に陥ってはいないでしょうか。
彼ら世襲議員も、一応は「選挙」という民主的なプロセスを経て選ばれています。
場合によっては、もしかしたら、他の一部の職業と同様に、「世襲」が意味のないことではない場合もあるのかも知れません。
だとすれば、問題は世襲議員という存在そのものなのでしょうか?
私は、真の問題はもっと根深く、私たちの見えにくい場所にあると考えています。
それは、日本の税制度に潜む、致命的な不公平です。
問題の本質は「相続税がかからない政治資金」
結論から言います。
日本の世襲議員がなぜ有利なのか、その最大の理由は、親から子へ政治資金を引き継ぐ際に、事実上、相続税が一切かからないという制度上の「特権」があるからです。
考えてみてください。
例えば一般の国民が親から1億円の現金を相続すれば、約2,800万円もの相続税が課せられます。
(※基礎控除等を考慮しない単純計算)
手元に残るのは7,200万円です。
一方、ある政治家が亡くなり、その子どもが後を継ぐとします。
親が「政治資金管理団体」に遺した1億円の資金は、個人の遺産とは見なされないため、後継者である子どもがその団体ごと引き継げば、1億円がまるまる、非課税で手に入るのです。
この差は、あまりにも大きい。
スタートラインが全く違います。
これはもはや「地盤(組織票)」や「看板(知名度)」といった曖昧なアドバンテージの話ではありません。
選挙の勝敗を大きく左右する「カバン(資金)」において、法制度が世襲候補に圧倒的な優位性を与え世襲を奨励しているのです。
潤沢な資金があれば、選挙事務所をいくつも構え、多くのスタッフを雇い、大量のポスターやビラを配布できます。
これは「人の力」ではなく、まさしく「金の力」による選挙です。
この「相続税ゼロ」というカラクリこそが、世襲議員を再生産し、政治への新規参入を阻む巨大な障壁となっているのです。
日本に存在する、無数の「小さな王朝」
この状況を、あえて、表面上は極端の様に見えるけれども、現実には決して極端ではない例で、考えてみましょう。
私たちは北朝鮮の権力世襲を「非民主的な王朝だ」と批判します。
彼らは「民主主義」や「人民」「共和国」という風にその国名に現れる表向きの看板を掲げながら、実態は金一族による支配体制です。
翻って、今の日本はどうでしょうか。
「民主主義」や「自由な選挙」という表向きの看板を掲げながら、その裏では、税制という国の根幹をなす制度によって、特定の家系への「富と権力の継承」が優遇されています。
これは、国全体がひとつの王朝である北朝鮮とは形こそ違えど、衆議院小選挙区という単位で、日本国内に二百数十もの「北朝鮮のような小さな王朝」が生まれることを、国が制度的に後押ししているのと全く同じです。
この一点において、日本の民主主義は、私たちが思うほど成熟していないのでしょう。
私たちがすべきは「禁止」ではなく「是正」
では、どうすればいいのか。
世襲議員の立候補を禁止すべきでしょうか?
私は違うと思います。
それは職業選択の自由や被選挙権・選挙権を侵害する可能性があり、新たな問題を産むだけです。
私たちが求めるべきは、世襲の「禁止」ではありません。
不公平なルールの「是正」です。
具体的には、政治資金管理団体の承継においても、一般の相続と同様の課税原理を適用することです。
資金の透明性を高め、特権的な継承をなくす。
誰もが同じルールの上で戦えるように、壊れた天秤を正常に戻すことこそが、今、求められています。
そして我々国民有権者一人一人は…
そして我々国民有権者一人一人は、この問題の本質を正しく理解し、賢く声を上げていく必要があります。
次に選挙が来たとき、候補者に対してこう問いかけてみてはどうでしょうか。
「あなたは、政治資金の世襲における税制優遇の問題について、どうお考えですか?」と。
「世襲はけしからん!」と感情的に叫ぶだけでは、政治は変わりません。
問題の構造を理解して、具体的な制度改正を訴える。
その冷静で知的な声こそが、政治家を動かし、この国の歪んだシステムを是正する力になります。
私たちの手で、見せかけの民主主義から、真に機会の平等が保障された民主主義へと、この国をアップグレードしていきましょう。

