【小説】四十一年のサイレント・ゲーム~僕の人生で、最も美しいエラーコード~第一幕:出会いとゲームの開始 第2章:0と1の世界
1984年、大阪。日本が経済の坂道を駆け上がっていた時代。
22歳の健人は、都島区の安アパートで、論理という名の毛布にくるまって生きていた。
技術系の高等専門学校を卒業し、中堅のソフトウェア会社でシステムエンジニアの卵として働き始めた彼は、会社の取引先の某…大企業にほぼ常駐し、その情報システム室に鎮座する巨大な汎用コンピューターの端末機に向かうことが日常だった。
彼の世界は、ディスプレイに映る緑色の文字と、キーボードを叩く乾いた音で満たされている。IF、THEN、ELSE。Aが真ならばBを実行し、偽ならばCを実行する。その淀みない思考の流れの中にいる時だけが、彼が本当に自分らしくいられる瞬間だった。
感情は、彼にとって最も難解なバグだった。喜怒哀楽という予測不能な変数は、彼の思考回路をショートさせる。だから、人付き合いは極力避けた。仕事上の必要最低限の会話以外は、自ら口を開くことはない。
そんな彼が、月に二~三度、重い腰を上げて向かう場所があった。大阪・キタの中心部の梅田から電車でひと駅の中津のビルの一角にあった「大阪市立勤労青少年ホーム」。そこには、彼が所属する「社会人・若者の野外&室内活動サークル」があった。参加の動機は、社会人として孤立すべきではないという、論理的な自己分析の結果に過ぎない。いわば、彼の人生における「必要処理」の一つだった。
ハイキングに行けば、黙々と最後尾を歩き、バーベキューをすれば、ひたすら網の上の肉を焼くことに集中する。それは彼にとって、楽しみというよりは、こなすべきタスクだった。サークルの仲間の多くは、彼を「真面目だけど、何を考えているか分からない奴」と評していた。それは、的を射た評価だった。彼自身、自分が何を考えているのか、よく分かっていなかったのだから。
