023 おはようバイオレンス (前編)
高1の時の話。
通常の英語とは別に、週に1回「英会話」という授業があった。
オーストラリア出身の白人の男性教師、Mr.ケイン(仮名)が担当だと聞き、当時は外国人に接する事がまず無かったからワクワクした記憶がある。
しかしそれはすぐに失望に変わった。
Mr.ケインは物凄い顎ヒゲを生やした小太りの中年男性で、いつも定刻通りに教室に入って来ると、ニコリともせず、
「Goodmorning Everyone !」
と言う。
そして、いつも持ってる黒い革のデカい鞄を教卓の上に置いたら、だいたい次に、
「Oh ! Too Hot !!」
と言って、全ての窓を全開にさせる。
まぁ教室にエアコンなど無い時代だったので夏はそれで構わないのだが、体感温度のセンサーがブッ壊れてるのか、
外が吹雪でも開けさせる。
40人の生徒からの殺意に近いブーイングを受けても全く動じない。
どうも彼は40人の生徒よりも、教師である自分1人の意見の方が尊重されて当然だと思ってる様子。
ケインは一切、日本語を話さず、そして決して笑わない。黒板に何か書く事もなく、1人1人の横に行き、順番に英会話を仕掛けて行くというスタイルだった。
生徒が答えに詰まると、右手に持ってる極太の金属製万年筆で頭をブッ叩く。
もちろん頭蓋骨を陥没させるような叩き方では無いが、ペシペシペシペシ叩かれると地味に痛みが蓄積してゆく。
そのペンで文字を書いてるとこを見た事は殆ど無く、つまり奴はそのペンを、
「生徒をしばく為の鞭」
として持っているのだ。

「アイツはオレ達を羊か何かだと思ってる」
「あれを盗んでどっかに捨てよう!」
という意見も出たが、手に持ってない時は胸ポケットに入れてるので無理だった。
そんなある日、誰かの仕入れて来た情報に僕らは驚いた。
ローカル番組で奴が「日本人女性と結婚して子供たちに英語を教えているケインさん」としてインタビューを受けていたと言う。
その「子供たち」に僕らも含まれているのだろうか?
他ではどうだか知らないが、少なくとも僕らは彼に英語を習ってる自覚は無く、
週に1回、代わりばんこに頭を木魚にされてるだけの時間だった。
知ってる単語を忘れてしまったのなら、百歩譲って叩かれた衝撃で思い出す事はあるかも知れない。
だが、元々知らない単語は幾ら連打されてもゼロから思い浮かぶハズが無い。
たまに痛過ぎる時があり、さすがに
「痛ぇなコノヤロー」
などと言うと、
「Hey ! English !!」
つまり「文句も英語で言え」と言ってまた叩くのだ。
じゃあ、あの時、
「You Motherfucking Bastard ! 」
などと返したら褒めてくれたのだろうか?
今度はベルトで引っぱたいて来るだろう。
ただ、そんな暴力教師に暴力で対抗しようという人間は現れなかった。よその学校の生徒とは、すぐ喧嘩になるのに、なぜ皆あのような理不尽を甘んじて受け入れてたのか、今思えば不思議だ。
ケインには、啖呵を切ろうにも言葉が通じないから、
皆、台風とかと同じ一種の「災害」のように受け止めてたのかも知れない。
そして僕も別にケインが嫌いでは無かった。まぁ間違っても好きでは無かったが…
後編に続く
