026 東京ソウルフード
高2の夏。もうすぐ夏休みというタイミングだった。
授業中、寝てばかりいるから放課後は元気。
その日も同じクラスのタツヤとシンジの3人で自転車を2人乗りしながらウロついていた。
僕は「ハンバーガー食いてぇな〜」と言ったが、タツヤはカネが無くて無理だと言う。
するとシンジが予想外な事を言い出した。
「オレの産みの母ちゃんって、東京で行方知れずって、ずっと聞かされて育ったんだけど、実は隣りの市で小料理屋をやってるって今頃になって親父が言って来てさ…」
シンジは4人きょうだいの長男で、下の3人とは母親が違う。
非常に妹弟想いで、継母とも上手くやってる感じではあるが、時折り見せる凶暴さと、どこか繊細な内面も隠し持つ男だった。
シンジによると「本当の母親」とは、まだ2回しか会ってないが、訪ねて行くと大層喜んでくれるのだそうな。
で、その実母が「友達も連れて、いつでもおいで」と言ってるので、そこへ行けば何か食わしてくれるよ、と。
「えっ、マジで?やった!行こう行こう〜!」
金欠のタツヤは喜んでいる。
2人がそう言うなら…と、チャリを漕いで30分。店は、まだ暖簾が出てなかったが、シンジはズカズカ入って行き、
「おーい、来たよ」と言った。
すると仕込み中だったらしいお母さんが、
「あらシンちゃん、友達も一緒?さあ入って!」
と、非常に明るく迎えてくれ、小上がりに通されて小瓶のコーラが出された。

「お腹空いたでしょ?ちょっと待ってね!」
やはり東京の人らしく、言葉に訛りがない。
3人でダラダラと話してると、しばらくしてお母さんが料理を運んで来るのが見えた。
「え、鍋?この真夏に?」
ちょっと驚いたが、それより驚いたのがその鍋がテーブルに置かれた時だった。
「ゲッ、何これ…マジかよ」
もちろん口には出さなかったが、鍋には丸のまま煮込まれて膨れ上がった得体の知れない何かがウヨウヨ入ってた。
「はい、これドジョウの丸鍋。東京の郷土料理ね!」
これが…東京…
シンジは平気そう。しかし横を見たらタツヤも青ざめていた。

え、高校生男子には唐揚げとかフライドポテト出すんじゃないの?
カルビなら10人前食べられるが、これは残り少ないコーラで丸飲みしても2匹が限界かも知れん…
…というかこの世で1番コーラと合わなさそうな気がする。
もちろんシンジの、そしてお母さんの手前、そんな事を口に出来るハズも無い。
これは食うフリをして、この2人に任せよう。何だかんだ言ってタツヤも食ってるじゃねぇか…
…いや違う。
「おいタツヤ、お前一緒に煮てあるゴボウばっかり食うなよ!」
「お前だって上に乗ってるネギを汁に浸して食ってるだけじゃねぇか!」
もちろん小声でしか言ってない。
シンジに対しても悪かったが、シンジも僕らに悪い事をしたと思ったらしく、ドジョウは全部食べてくれた。
母と息子の会話も、まだぎこちなく、やはり居心地は悪かったので、鍋が無くなったら早々に引き上げて来た。
シンジと別れた後、タツヤが
「あ〜今日は酷い目に遭った」と言ったので、
「お前、卒業したら東京行くんやろ?
東京の奴らは全員ドジョウを食ってんだ!
ゴボウだけ食って乗り切れるほど東京は甘くないからな!」
と言っておいた。
最後に、これは付け加えるべきか迷ったのだが、感動の再会だったハズのシンジ親子は、それから半年もしない内に大喧嘩になって、その後絶縁したと言う。
