『名付け得ぬものの領分』
胸の奥で軋むこの圧迫感に、
手垢のついた名前をあてがうな。
「悲しみ」と呼んだ瞬間に、
この固有の傷口は、
街に溢れる「ありふれた悲劇」へ引きずり下ろされる。
「焦り」と分類すれば、
世界は即座にお仕着せの処方箋を突きつけ、
「孤独」と名付ければ、
誰もがぬるい同情で撫で回そうとする。
拒絶する。
俺の胸底の軋みは、
そんな既成の鋳型に収まるために発生したんじゃない。
辞書にある言葉へすり替えた瞬間、
この生の熱量は、
他人が消費しやすいだけの「記号」へと形骸化する。
だから、
絶対に名付けない。
意味へと回収されない脈動のまま、
輪郭を拒む声のまま、
暗闇の底に沈めておく。
言葉に落とし込めなかった
「言語化の敗北」ではなく。
誰の解釈も許さず、
誰の所有にもならない「不可侵の領分」として。
今夜、
俺は定義されないまま、
ただ、息をする。

──眠れない見知らぬあなたに捧ぐ──
〝名付けぬ激情を保つ今日への、矜持の添え状〟
