ポエム「記憶の中に、俺を置き去りにしない“涼やかな人”」
その人は、
昔の俺をよく覚えている。
けれど再会するたび、
その人は、
記憶の中の俺を探さず、
今日の俺に会い直してくれる。

「あの頃はこうだった」と笑っても、
懐かしさの中へ
今の俺を閉じ込めたりしない。

過去の俺で、
今の俺を見ない人だ。
一度こぼした弱音を、
俺の本音だと決めつけない。
一度選んだ道を、
俺の唯一の方向にしない。
昔の熱を
今の心の温度だと決めつけず、
変化の理由を
無理に説明させたりもしない。
そんな“涼やかな人”は、
誰かを思い出の中に
置いたままにしない。
人は、変わる。

笑い方も、
守りたいものも、
似合う言葉も変わってゆく。
昨日まで大切だったものを、
今日は静かに手放すこともある。
その人は、
それを薄情とは呼ばない。
「前と違うね」と責める代わりに、
今の輪郭を
もう一度、見つけ直してくれる。

“涼やかさ”とは、
思い出を抱えたまま、
今の俺に
会い直せること。
昨日まで知っていた姿を、
今日の俺の答えにまでしないこと。
昔の俺を知りながら、
今の俺の居場所まで
狭くしないことだ。
その人の前では、
変化を隠さなくていい。
昔と違う自分を、
まるで裏切り者みたいに
説明しなくていい。
「今は、こう思う」

その一言を、
過去への言い訳ではなく、
今日の言葉として受け取ってくれる。
それが、
たまらなくうれしい。
人を大切にするとは、
思い出の姿を守ることじゃなくて。
今日のその人に、
何度でも会い直すこと。
会い直すたび、
その人を知り直すこと。

久しぶりに会った帰り道、
俺は少しだけ
呼吸が深くなっている。
昔の自分を否定せず、
それでも今の自分で
歩いていける気がしている。
涼やかな人とは、
過去を忘れてくれる人じゃなくて。
記憶を辿るより先に、
今日のこちらを見てくれる人だ。

何度会っても、
ありのままの今の俺に──
そう…
──少しだけ初対面でいてくれる人だ。



