犬が可愛すぎて、日頃クールな俺でさえ壊れて、意味のある言葉が使えなくなった話
「おい、もふもふのかたまり」
玄関を開けた瞬間、俺はそう言っていた。
うちの犬にも、当然ながらちゃんとした名前はある。
“ハナ”ちゃんだ。
呼べばちゃんと反応する、立派な“本名”だ。
名前:ハナ(♀️)
年齢:9歳 シニア期(老犬の入り口らしい)
犬種:シーズー
でも気づけば俺は、その名前を“ありのまま”ではほとんど使っていない。
代わりに出てくるのは、
「ハナ麻呂」 「ハナ太郎」「もふ子」 「※シャレオッティ・ハナ婆」
みたいな、性別無視&説明責任ゼロの呼び名ばかりだ。
※👉さすがにこの呼称には解説が必要だろう。
オシャレ⇒シャレオツ⇒シャレオッティと出世魚のように変換された形容詞(?)に本名の「ハナ」を合体させ、最後に老女を意味する「婆」をくっ付けた命名だ。
仮にもレディだぞ、犬とはいえ「婆」は失礼だろ。

たとえば帰宅した瞬間。
あいつは毎回、床で軽くスリップしながら突っ込んでくる。
しっぽはもはや左右ではなく“円”描いているし、顔もなぜかちょっと崩れている。
その姿を見た瞬間、俺の口から出るのは
「うわああああああああああああもふもふのかたまり来たああああああ」
である。
いや、犬だろ。
ごはん前もおかしい。
ただ座って待っているだけなのに、
「いい子すぎるんですが???なにそれ???えらすぎでは???」
と、なぜか敬語と疑問形が混ざる。
そして途中から、
「えらえらえらえら…」
という謎の詠唱に入る。
もう完全に会話ではない。
散歩のときも同じだ。
リードを見せた瞬間、
「いくの!?いくの!?おそといく人!?おそといく犬なの!?」
と、意味のない確認を繰り返している。
そりゃ行くに決まってる。
さっき自分でリード持っただろ。
そして一番危険なのが、寝ているとき。
丸くなって、たまにピクッと動くだけで、
「……ちっちゃい変な生き物がここにいる……」
と語彙が減少し、
最終的に
「ねむねむのもふもふ……」
とか言い出す。
だから誰なんだ、それは。


たまに、自分でも「今のはさすがにおかしい」と思う瞬間がある。
犬を撫でながら、「かわいいねぇ…かわいいねぇ…」と言っていたはずなのに、
気づいたら「かわ…かわ…かわァァ…」みたいな音になっていて、
最終的には、カラオケで自慢の持ち歌でも出ないような高音域による
「くぁわうぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ〜〜〜!!」
(いや、オリラジ藤森かよ)
というビブラートをMaxまで利かせた超絶近所迷惑な絶叫へと移行する。

……そのあと少しのあいだ、意味のある言葉が戻ってこない。
何かを伝えたいはずなのに、出てくるのは音だけで、
自分でも「今、何をしてるんだろう」と一瞬だけドン引く。
でも犬は気にしていない。
それどころか、少しうれしそうにしている。
もしかすると、あいつにとっては最初から、
俺の言葉なんて“音”でしかなかったのかもしれない。
そう考えると、さっきまで普通に会話していたはずの時間が、ぜんぶ別のものに見えてくる。
たぶん、もう戻れない。
ここまでくると、さすがに思う。
これ、冷静に考えてかなりおかしい。
人間は本来、意味のある言葉でコミュニケーションをとる生き物のはずだ。
なのに犬の前では、
語彙が消え
文法が壊れ
音と勢いだけが残る
という状態になる。
でもたぶんこれ、俺だけじゃない(はず)。
・「おてて」「あんよ」とか言い始める
・名前がどんどん増殖する(ハナちゃん → ハナ麻呂 → シャレオッティ・ハナ婆)
・最終的に原型が消える
あの現象。
理由はたぶんシンプルで、
かわいさが、処理能力を超えている。
人間の脳には、おそらく
「犬がしっぽを全力で振ってこっちに走ってくる」
みたいな状況を、冷静に言語化する機能が備わっていない。
だから限界を超えた瞬間、
ちゃんとした言葉を諦めて、
とりあえず出てきた“音”で対応するしかなくなる。
つまり俺は、犬に話しかけているのではなく、
可愛さに対して、音を発しているだけなのだと思う。
そう考えると、
「もふもふのかたまり」も
「ハナ麻呂」も
「シャレオッティ・ハナ婆」も、
ふざけているわけではなく、
処理しきれなかった感情の、香ばしい“残りカス”みたいなものなのかもしれない。
しかも厄介なことに、この現象は元に戻らない。
一度「音」や「感覚」で会話するようになると、
本来の名前で呼んだときに、むしろ違和感が出る。
「なんか距離あるな」みたいな空気になる。
いや、むしろそれが本名だよ。
だから今日も俺は、
ちゃんとした名前を知っているにも関わらず、
玄関で全力回転しているあいつに向かって言う。
「おい、もふもふ回転丸」
たぶんこれが、いまのあいつを一番正確に表しているからだ。
そして同時に、
いまの俺の状態も、たぶんそれが一番素直なんだと思う。


いつか機会があったら、全力でおめかしした「シャレオッティ・ハナ婆」の実物画像をお披露目しますね!

いつまでも癒やしの存在として、
長生きしてくれよな!
─俺より、果てしない愛を込めて─
最後までお読みいただきまして、
本当にありがとうございました!
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