【noteでBL】スピンオフ的な
※ギャラリーからお借りしました✨️
地方移住組、坂木✕石井のお話。

平和的なお話の予定。
◇
石井宅でダンボールの開封作業をしていると、香水の小瓶のようなものが床に直に置かれているのが見えて坂木は手を止めた。
尋ねてみると、引っ越し前に近所に住んでいた『コヅくん』という友人から餞別にもらったものだという。
蹴飛ばして割れては困るからと、壁にぴったりくっつけて、石井なりに大事にしていたようだ。
「つけたりしてるんですか?」
「いえ…。何か、使うのもったいなくて使えてないんです。瓶も綺麗だし」
「たしかに、綺麗ですね」
と、坂木も石井の横で瓶を眺めた。
角度を変えるとクリスタルのように多様に鋭利な輝きを見せる、シックで上品なデザインの小瓶だった。
「コヅくんの誕生日が、クリスマスイブなんですが」
「えっ?はい」
「誕生日になったらつけてほしい、って言ってたんで、つけてみようかなとは思うんです」
「…………」
照れくさそうに石井は頭をかいた。
「でも僕、自分で香水とかつけた事なくって!どこにつけるものなんですかね…」
坂木は、チラリと放置されたままのダンボールを横目で見る。おそらく、今日の作業はここまでだろう。
「僕もつけた事無いので…」
「坂木さん、つけてそうなのに」
「そう見えます?」
「はい」
屈託なく、石井が笑う。
坂木もぎこちなく笑みを返す。
(───どんな人なんだろう……)
どんな人なのか、聞いてみたいな…。
「いいですよ」
「えっ」
どうやら心の声が漏れていたらしい、石井は頷いて「コヅくんです」と、スマホの画面をスクロールしてから坂木に写真を見せてくれた。
『コヅくん』は、アッシュブロンドの髪で、森の中の泉のような瞳の色をした男性だった。
◇◆◇
石井が言うには、コヅくんの名字は小塚で、スーパーで買い物を終えて店を出た時、ぶつかってしまったのが初対面だったらしい。
その拍子に地面に鍵が2つ落ちて、石井は「すみません!」と頭を下げて鍵を拾い、またポケットにしまった。
そうしてそのまま、また歩き始めたのだが。
後ろから小塚が何やら叫んでいる。
石井は「怒ってるのかな…」と何やら怖くなり、急ぎ足で進むと、何と小塚も後を追いかけてきた。
慌てて逃げる石井、
何やら叫びながら、ずっと追いかけてくる小塚。
石井はその時、金髪だったという理由だけで、小塚の事をヤンキーだと思っていたらしい。
とうとう、石井の自宅の玄関前まで追いかけてきた。急いで鍵を鍵穴に差し込もうとするが、手が震えてなかなか鍵穴に入らない。
チャリ、と石井の耳元で金属の擦れる音が聴こえて「ヒエェッ!」と石井は情けない声を上げた。
恐ろしくてその方向を向けない。
石井の想像では、鎖的な物を振り回している様子を浮かべていたらしい。
坂木はヤンキー文化をよく知らないので、そういうものなのかと頷いて聞いていた。
「貴方のはこちらですよ」
ぶっきらぼうな低い声がして、石井はおそるおそる振り返る。
小塚は無表情のまま、豆腐と食パンの形をしたキーホルダーがついた鍵を揺らしていた。
(豆腐………)
見てみたい、と思いながらも坂木は続きを促す。
石井は間違えて、自分が持ってきたものは小塚の鍵の方だったのだと、そこでようやく気が付いて、平謝りに謝った。
そして「良かったら、お詫びに」とお茶をご馳走しようと自宅の中に招き入れた。
中へ入り、小塚は絶句していたと、石井は言う。
あまりにも雑然とした室内に、小塚は「引っ越すところなのか?」と石井に訊いてきた。
驚きのあまり、小塚の口調が砕けているが石井は気にしない。
「いつもこんな感じです」
と、少し恥ずかしく思いながらも、そう小塚に言った。
インスタントのコーヒーを淹れ、スーパーで買ってきた、少し奮発したバームクーヘンを開封して、切り分けようとしたら小塚が止めてきた。
包丁を持ち、小塚がバームクーヘンを削ぎ切って皿に並べた。
ぶちぶちと、何やら言いながらも小塚は座布団に座りコーヒーを啜った。
石井もミルクと砂糖を入れて、コーヒーを一口飲む。
「おいしいですか?」
と、石井が訊けば小塚は
「味がする」
とだけ答えた。
面白い人だな、と石井は思ったらしい。
それから一ヶ月後くらいだったか、
隣に小塚が引っ越してきて、その時に初めて石井は彼の名前を知ったのだった。
◇
「────小塚さんが、隣に引っ越してきたんですか?」
「はい。ぶつかった日に、物件を探している最中だったらしくて」
雑然とした石井の部屋を見た上で引っ越してきたのは、一体、何が気に入ったのだろう。
不思議に思ったが、坂木は訊かなかった。
「コヅくんって、変わった人だったけどすごく真面目で、でも休日とかを大事にしていて優しい人でした」
石井は話を続けた。
小塚は主にリモート作業をしているらしく、平日のほとんど会う事は無かった。
しかし、それから数ヶ月が過ぎた頃、小塚の方からお茶の誘いがあったらしい。
連絡先を交換していたので、LINEで連絡が届いた。
日曜になると決まって、小塚からお茶の誘いが来るようになっていた。
小塚は料理やお菓子作りが得意だったようで、日曜にはパウンドケーキやクッキーを焼いて石井をもてなしてくれていた。
石井も何かせずにはいられなくて、ケーキやチョコレートを手土産に持参していた。
しかし、それらにも特に感想は無く、ぶっきらぼうな物言いは相変わらずだったので石井は少し、楽しんでくれているのか不安に思う時もあったようだ。
石井が地方に引っ越す時まで、誘い続けてくれていた所を見ると、きっと楽しんでくれていたんだと思う。
うんうん、とまるで自分を納得させるように石井は頷いた。
そうして、交流を深めていくうちに、小塚は少しずつ、石井に干渉してくるようになってきたという。
「危なっかしくて見ていられない。僕にまかせてほしい」
「不注意だぞ、怪我をしたらどうするんだ」
「あんな所に眼鏡を置いていたら、踏んで割ってしまうだろう」
小塚の言うことは全て正しかったので、石井は頷く事しか出来なかった。
しかし、石井にも落ち込む時はある。
しょんぼりしていると、小塚は優しくなった。
「言い過ぎた」
と言って、優しく抱きしめてきたという。
「えっ!?」
坂木は驚いた。
「抱きしめてきたんですか?」
「はい」
「そ、そうなんですか…」
「コヅくんは、スキンシップが多いタイプの人で。僕だけじゃないと思いますよ」
と石井は朗らかに笑って言った。
「それに、僕のことをうさぎだと思っていたみたいです」
「うさぎ?」
(犬ではなく?)
喉まで出かけた言葉を、坂木は何とか飲み込んだ。
「実家でうさぎを飼っていたらしくて、僕のことを『クヌート』と呼んでたんです」
「まさか、うさぎの……?」
「はい。カッコいいあだ名がついたと思ってたら、飼ってたうさぎの名前だったみたいで」
似ている、と言われてよく頭を撫でられたのだと笑う石井から、坂木は目をそらしていた。
坂木も実家の柴犬『おもち』と石井を重ねていたので、人のことは言えなかった。
◇
小塚は交流を重ねるにつれて、どんどん距離が近くなっていった。
「おはよう」と言って、石井の頬に口付けをしたり、お茶会から帰る時も額にキス。
時に、膝の上に乗せられた事もあったと石井は言った。
段々と、相槌を打っていた坂木も口数が少なくなっていく。
思う事はあったが、口に出してもよいものかと、坂木は口を閉ざしていた。
【つづく】
思ったより長くなってしまった……
(無計画)
