【ショートショート】おつかい(#せりふ三題噺)
降り積もった雪に、束の間顔を出した太陽の光がキラキラと反射している。
「こんにちは!」
三輪車に跨った子どもが元気な声で挨拶をしながら、手袋をはめた小さな手で戸を叩いた。
「はーい、いらっしゃい」
中から、四十路と思しき女性がにこやかに出てくる。
「偉いわねぇ、おつかい?」
「うん。おかあさんにね、エビを買ってきてって言われたの。今日はエビフライだって」
「まあ、素敵ね。ちょうどいいエビがあるのよ」
女性はふふっと笑って、商品を用意した。
「おかあさんがね、これを渡せばいいって」
「あら、お利口さんね。ありがとう」
子どもが差し出したものは、つらら。なかなかに立派なものが四、五本ある。
「おかねじゃなくて、いいの?」
首をかしげる子どもに、女性は笑顔で言った。
「いいのよ。うちでは、つららがお金の代わりになるの。冬の間だけね」
「つらら、何につかうの?」
「色々な物を冷やしたり、商品を綺麗に飾るのに使えるのよ」
「そうなんだ。あ、もう帰らないと」
バイバイ、と手を振る子どもを慌てて引き止めた女性は、エビを差し出した。
「はい、忘れ物。このエビも、つららで冷やして保存してるのよ」
「わすれるところだった! ありがと」
ご機嫌で三輪車を漕ぐ背中を、にこにこと手を振って見送る女性。すると、子どもと入れ替わるように一人の男が姿を現した。
「ご要件は?」
女性は笑顔のまま、低い声で尋ねる。
「ボスにおつかいを頼まれてね。新しいものが入ったりしてないかい?」
「ちょうど今、いいのが入ったわ」
女性は鋭い目つきで男を見やり、手元のつららを弄ぶ。それを見た男が物騒な笑みを浮かべた。
「いいねぇ、立派なもんだ。溶けちまえば、証拠も残らねぇ。冬限定なのが惜しいくらいだよ」
「ま、色々な使い道があるからね。お好きなようにお使いくださいな。うちのお得意様ってことで、保存用もおまけしておくわね。お代は⋯⋯」
いつの間にか、外は吹雪となっていた。
こちらのお題で書かせていただきました。
いつも楽しいお題をありがとうございます。
わが家では、氷柱を見ると「氷柱殺人事件!」と叫ぶ習慣があります。
画像は、みんなのフォトギャラリーよりお借りしました。
