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カップの中身(#せりふ三題噺)

「よぉ、元気か?」
 ノックもそこそこに、一人の男がガチャリと家のドアを開け、無遠慮に上がり込んでくる。

「なんか、家の前に真っ白な馬がいたんだけど。お前、いつの間に馬なんか飼い出したんだ? それか、待ち望んでた白馬の王子様がとうとうお出ましになったのか?」 

 ニヤニヤするジャックを私は冷たい目で一瞥した後、その視線を手元に戻す。チリン、と涼やかな音が響いた。

「何してんの?」

 煮えたぎる鍋をかき混ぜる度に、チリンチリンと軽やかな音が鳴る。ジャックは首を傾げ、鼻をクンクンさせながらこちらに近づいた。

「手土産づくり。今夜の宴会に持って行くの」

 私は彼の方を見ず、鍋の中身に集中する。気を抜くとすぐに失敗してしまうからだ。

「久しぶりに、本物らしいことしてんじゃん」

 そう言ったジャックは、テーブルの上を見るとパッと顔を輝かせ、置かれていたカップを手に取った。

「ちょうど喉乾いてたんだよね。これ、もらうぜ」
 その声に私は慌てて振り向く。

「待って、それは⋯⋯」
 時すでに遅し。ジャックの喉がゴクリと鳴った。次の瞬間、ジャックが口から火を噴く。

「ゴホッゴホッ。な、なんだよこれ!」
 涙目になって口を押さえたジャックの喉から、チリン、という音が響いた。私はため息をつく。

「そのカップの中身は、今鍋で煮てるものと同じものよ。私たちにとっては効果があるものだけど、あなたには合わないでしょ」

「その鍋には何が入ってるんだ!」

 鍋をのぞき込もうとするジャックを軽く制止する。

「調べないほうがいいよ、魔女の鍋の中身なんて」

 そう言った私は、すぐに思い直して肩をすくめた。

「まあ、あなたとは長い付き合いだし、特別にレシピを教えてあげる。普通は、血を象徴するブラックベリーの汁を使うんだけど、私はあえて、火山が噴火したときのマグマを使ってみたの」

「どうりで熱いと思った!」

「熱を冷ますために、風鈴の音色も入れたわよ」

「チリン、っていう音の正体はそれか!」

 ジャックは喉を掻きむしりながら言う。

「それから、やっぱり彩りは大事でしょう? 深紅に映える黒のソースを入れると、見た目も引き締まるから、シマウマのシマシマを使ったの」

「⋯⋯つまり、家の前にいたあの馬は、もとはシマウマだったわけだな」
 シマシマを取られてかわいそうに、と呟くジャック。

 コポポ、と私は鍋の中身をカップに注いだ。

「できた! じゃあ、行ってくるわね。魔女達の集うサバトへ」
 私は意気揚々とジャックに手を振る。

「おい、俺は置いてけぼりかよ」
「今回は、あなたはお留守番よ。いい子で待っててね」

 私はウインクしながらそう言うと、ルンルンと弾む足取りで家を後にする。

「待て、その前にこのチリンチリン鳴る喉を何とかしてくれよ!」

 背後でジャックが何やらわめいていたが、華麗に無視を決め込んだ私は、するりと闇に体を溶け込ませた。


三題を鍋に入れてグツグツ煮込んでみました。

作中に出てきた二人は、こちらのお話に出てきた、魔女とジャック・オー・ランタンです。

こちらのお題で書かせていただきました。

画像は、みんなのフォトギャラリーよりお借りしました。

#せりふ三題噺
#火山シマウマ風鈴

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