見出し画像

【ショートショート】溜め息吐息の旅

 溜め息。

 あなたも溜め息をついたご経験、おありでしょう?

 「溜め息をつくと、幸せが逃げる」なんて言葉もありますが、そうとも限りません。

 これからあなたを、溜め息を巡るお話の旅にご案内いたしましょう。

***

 おや。
 あちらの女性が、溜め息をついていますよ。

「はぁ⋯⋯」

「どうした、溜め息なんかついて。なんか、悩み事でもあるのか?」

「ううん、そうじゃないんだけど。なんだか最近、疲れが取れないの」

「そっか。⋯⋯ほい」

「え?」

「あげる。疲れてる時は甘いもの、だろ?」

「⋯⋯ありがとう⋯⋯!」

 こういうときにもらうちょっとしたお菓子って、すごく心に沁みるとき、ありますよね。

 逃げかけた幸せは、女性のもとに戻ってきたようです。

***

 お次は、緊張で全身が強張った若者たち。
 何かのコンテストに出場しているようです。

「今回の、最優秀賞は⋯⋯」

ドクン、ドクン、ドクン

(頼む、頼む、頼む!)

(最優秀、最優秀、最優秀⋯⋯!)

「125番! ◯◯チーム!」

「はぁー。やった⋯⋯!」

「おい、やったな! 俺たち、やったんだよな!? 夢じゃねぇよな!?」

 抱き合う勝者たち。緊張から解放されて、大きな溜め息を吐き出しています。

「はぁー⋯⋯」

 惜しくもあと一歩届かず、深く嘆息する者も。

 会場には、悲喜こもごもの溜め息があふれかえっていますね。

***

ドタドタ、バタン!

「親父!」

 今度は、息を切らして走ってきた男性。
 
 病室のドアをすごい勢いで開け、はぁはぁと肩で息をしています。

「おー、ひさしぶり。元気そうだな」

「元気そうだなって⋯⋯親父が倒れたって聞いて慌てて来たんだけど!」

「ああ、まぁ、大丈夫だ。ちょっとした貧血だったのを、母さんが心配してなぁ」

「はぁぁー⋯⋯よかった⋯⋯なんだよ、心配させやがって」

 体から力が抜けてくずおれそうになり、膝に手をついて深く息を吐き出す男性。

 大事なくて、何よりですね。
 安堵から出る溜め息もあるようです。

***

 今度は、夕日が沈むのを浜辺で見つめる、恋人たち。そっと、身を寄せあっています。

「なあ」

「なぁに?」

「俺たち、いろいろあったけどさ。今こうしていられるの、すげぇ幸せ」

「⋯⋯うん。私も」

「来年もまた、こうやって夕日を見ような」

「うん」

 そっと顔が近づき、そして、離れました。

「はぁ〜⋯⋯」

「どうした?」

「うん、えっと、⋯⋯あなたが、素敵すぎて」

「はぁ〜⋯⋯」

「どうしたの?」

「いや、あの⋯⋯君が、かわいすぎて」

 お似合いカップルですね。胸焼けしそうです。    

 永遠にいちゃついていてください。

 お幸せに。

***

 コンサート会場から出てきた女性たち。
 余韻に浸りつつ、カフェで一休みしています。

「はぁー⋯⋯すごかった⋯⋯!」

 感嘆の溜め息が止まりません。

「すごかった⋯⋯泣けてきた⋯⋯何あれ、なんであんなにすごいの⋯⋯」

「わかる。とにかく、すごい。来てよかった。本当にすごかった」

 感動を語り合いたくてカフェに入ったはずなのに、双方とも語彙が旅に出て帰ってこないようです。

 本当に感動したときって、すぐには言葉にならないこともありますよね。

***

 最後は、温かい飲み物を手にした男性。
 一口飲み、深い息を吐き出します。

「はぁぁー⋯⋯」

 ほっと、一息。
 
 何も考えず、ただ体に巡る温かさを感じて、力が抜けていきます。

「今日も一日、よく働いた」

 じんわりと体が温まり、心地よい感覚に包まれます。手にしたカップの温かさも、心に沁み入るようです。 

「よし、明日もがんばろう」

 一日の終わりは、このようにありたいものですね。

***

 いかがでしたか?
 溜め息にも、様々なものがありましたね。

 おや? 
 あなたも今、溜め息をつきましたね。

 その溜め息は、どのような心境から出たものなのでしょうか。 
 ぜひ、詳しく教えてください。
 
 この旅の、終着点として。


今回は、新しい形にチャレンジしてみました。

もともとは、ザ・ピーナッツが歌う「恋のバカンス」の歌詞が頭に浮かび、恋愛パートから作ったのですが、気づけばこのような形になっていました。

こちらのお題で書かせていただきました。
ありがとうございます!

画像は、みんなのフォトギャラリーよりお借りしました。

#風まかせ文芸部
#溜め息

この記事が参加している募集