見出し画像

【毎週ショートショートnote】春眠フラペチーノ

「春眠フラペチーノを一つ」

 浩樹はそわそわしながら注文した。頷いた店員が笑顔で作り始める。氷とクリーム、桃色の花びら、雨風と鳥の鳴き声がミキサーにかけられた。

「よい夢を」

 浩樹は弾む足取りで席に着いた。

「これが念願の! これからは会社に行かなくてもいいし、通帳の残高に怯えることもない!」

 一口飲むと、甘い夢が広がった。雨上がりの空気を震わせる鳥の声と舞う花びら。それらをよそに、心地よい寝床のなかで惰眠を貪る。

 次の瞬間。
「うわぁ!!」

 浩樹は背中から奈落の底に落ち、幸福な夢は儚い鳥の声と共に露と消えた。

「おはようございます」
 目を開けると店員の笑顔があった。
「なぜ⋯⋯」
 浩樹は茫然として呟く。
「春眠フラペチーノを飲めば、心地よい春の眠りのなかで、いつまでも終わらない幸福な夢を見られるはず。そのために高い金を払い、会社まで辞めたのに」
「しかし、古き言葉にもございます」

 店員はにこやかに言った。

「春の夜の夢、と」

(410字)


春の夜の 夢ばかりなる手枕に
かひなく立たむ 名こそ惜しけれ 
                 周防内侍

『千載和歌集』

おごれる人も久しからず
ただ春の夜の夢のごとし

『平家物語』

こちらのお題で書かせていただきました。
(締切に間に合ってないかも)

画像は、みんなのフォトギャラリーよりお借りしました。

#毎週ショートショートnote
#春眠フラペチーノ