見出し画像

【掌編小説】葉桜の奥(#せりふ三題噺)

 空が青すぎて、逆に憂鬱になる。
(仕事したくねぇな。こんないい天気の日に。優雅に昼寝でもしていたい気分だ)

 あいつみたいに、と目を眇める。風に揺れる葉桜の隙間から、アイスコーヒーを片手に揺り椅子に座るロマンスグレーの男が見えた。

(仕方ねぇ。さっさと終わらせて、俺も昼寝するか)
 そう決心して木陰から出ようとした、まさにそのとき。

「やるなら今だよ」

 のんびりとしたその声に体が凍りつく。ロマンスグレーの男はこちらを見向きもせず、コーヒーのストローを口にくわえた。そして、そのまま目を閉じ、ゆらゆらと椅子を動かし続ける。

「葉桜の奥に、いるのだろう? 殺し屋さん」
「⋯⋯なんで分かった」
 足音を立てずに日差しの下へ進み出る。ロマンスグレーの男はゆっくりと目を開いた。

「慣れているものでね。自慢じゃないが、私は敵が多い。殺し屋が来ることなど想定内さ」
「そうか」
 静かに呟き、暗器を構える。手を下そうとしたとき、背後から口笛が聞こえてきた。はっと後ろを振り返る。

「言っただろう、想定内だと」
 その言葉を最後に、意識が途切れた。

***
「旦那様、これを」
「ふむ。これで暗殺者を差し向けたのが誰か判明したな」
「隠居したような芝居を打って敵の油断を誘い、その尻尾を捕まえる。お見事でございます」
「なぁに、これからが本番だよ」

 ざあっと音を立てて風が吹き抜ける。揺れるコーヒーに桜の花びらが一枚、ふわりと舞い降りた。


こちらのお題で書かせていただきました。

画像は、みんなのフォトギャラリーよりお借りしました。

#せりふ三題噺
#アイスコーヒー葉桜昼寝

この記事が参加している募集