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niho_iida
【毎週ショートショートnote】サンプル便座
「こちらサンプルです」
駅前で差し出されたソレをつい受け取り、腕の中を見下ろして俺は思わず足を止める。
「便座?」
サンプルの便座ってなんだ。
後ろを振り返るも、便座配りをしていたはずの人影は既に消えていた。
四方八方から視線が突き刺さる。便座をぶら下げているのだから当然だ。しかしどこかに放置して帰るのも良心が痛む。俺は好奇の視線に耐えながら家まで辿り着いた。
家のトイレに便座を設置してみると、トイレ空間がなぜか中学校の教室に変わった。目の前に、当時好きだった女の子が立っている。
「意地悪してごめん! ほんとは君のことが好きだったんだ!」
俺の口が勝手に動く。
「いいよ」
その子が笑顔で言う。ジャーッと水が流れ、トイレは元の空間に戻った。
(この便座があれは、過去を水に流せるのか!)
俺は便座を持ち歩くようになった。過去の黒歴史も、会社での失敗も、全て水に流した。
便座男、という新たな黒歴史だけは流せそうになかった。
(410字)
こちらのお題で書かせていただきました。
ありがとうございます。
改めて、400字って難しい⋯⋯!
画像は、みんなのフォトギャラリーよりお借りしました。
