【ショートショート】ご機嫌な絨毯
私の世界は、退屈で、閉鎖的で、つまらない。
家族仲は冷え切り、私がどこで何をしていようと無関心。没個性な私は特に目立つこともなく、まるで透明人間。私がいてもいなくても、寸分の狂いもない毎日が繰り返される。
いつか、ここから飛び立ってやる。こんな、自分の存在価値が希薄な世界とはおさらばだ、とは思っていたけれど。
「まさか、こんな形で飛び立つとはね」
「俺様だからこその、なせるわざってやつだな。惚れた?」
「絨毯が飛ぶって、なに? そんな、某アニメみたいなことある? 」
「あるんだなー、これが。ちなみに、その某アニメの絨毯、モデルは俺様の古いダチ」
「しかも、しゃべってるし。しゃべる絨毯。笑えないんだけど」
「ギャップ萌えってやつ? 俺様に惚れたか?」
「⋯⋯この見た目でそのキャラなのは、たしかにギャップだわ。萌えないけど。逆に幻滅だけど」
風にそよぐふかふかの長い毛足は、汚れなき純白。中央には、ピンク色の糸で刺繍された大きなハートマーク。
どこからどう見ても乙女チックなデザインの絨毯に座り込んだ私は、文字通り空を飛んでいた。
「たまたま入った骨董品のお店で、なんか可愛いなと思って衝動買いした自分を殴りたい⋯⋯」
「これはもう運命だよな! 俺様、一目でピンときたぜ! これから俺様は、あんたと世界中を旅して、めくるめく冒険をして、そんであんたを天国に連れて行くんだってな!」
「⋯⋯え、こんな空を飛んでる状態で天国とか言われたら、笑えないんだけど。この高さから私を落とすの? それとも、このまま上り続けると、天国にたどり着くとか?」
急に出てきた不穏な単語に、思わず絨毯の毛足をぎゅっと握りしめる。
「いたいいたい! やめてくれよ、俺様の大事な所が千切れでもしたらどうするんだ」
「⋯⋯なんか微妙に下ネタ感を出してくるのやめてほしいんだけど。ていうか、痛覚あるんだ」
「あるんだよ、だから大事に扱ってくれよな。⋯⋯誤解させたなら悪かったな。ったく、変にネガティブなところがあるよなあ、あんた」
絨毯は、少し沈黙した後、真剣な口調で切り出した。
「俺様は、あんたが俺様を見つけたときの表情に一目惚れしたんだ」
「ええ?」
「嘘じゃないぜ、あんたは自覚なかっただろうけど、とろけるように俺様に向かって微笑んでくれたんだ。かわいいな、と思った」
「そ、そんな⋯⋯」
「あんた、あそこを出たかったんだろう? だったら俺様があんたを連れ出して、色々な世界を見せてやる。俺様があんたを笑顔にしてやるよ」
不覚。ときめきが止まらない。こんなに熱烈な告白は、今までにされたことがない。しかも、こんな空の上で。絨毯に。⋯⋯絨毯に?
「もちろん、俺様のテクニックをもってすれば、あんたを極上の天国へ⋯⋯いたいいたい、悪かったって、もう言わないから引っ張らないでくれ!」
前言撤回。ときめかなかった。だって絨毯だし。下ネタみたいなこと言うし。断じて、ときめいてなんかいない。
