【掌編小説】3秒後に吹く風(#風まかせ文芸部)
おいしそうな匂いに、夏鈴の口角が上がる。
「屋台で売ってるってだけで、なんでこんなにおいしそうなんだろう」
夏鈴が琉生に向かって言うと、琉生は頭の後ろで手を組んで「知らねー」と呟いた。
「なによ、琉生は楽しくないの?」
「べつに。ってかお前さ、合格祈願のお参りに来たくせに、屋台しか見てなくないか?」
「お参りは、後でちゃんとするもん」
口を尖らせた夏鈴は、次の瞬間にはパッと笑顔になり、唐揚げの店へ駆け寄った。
「はい、ちゃんと琉生の分も買ったから」
差し出された唐揚げ串を、琉生は表情を変えずに受け取る。
「ね、おいしい⋯⋯」
でしょ、と続けようとした夏鈴は、唖然としてその言葉を飲み込んだ。
「もう食べちゃったの!?」
「まあ、うまかったから」
「渡してから3秒くらいしか経ってないよ?」
「俺、早食いなんだよ。お前も知ってるだろ」
「いくら早食いだっていっても⋯⋯」
その癖は良くないから直しなよ、と夏鈴は呆れた表情で言ったかと思うと、また目を輝かせて一つの屋台に駆け寄った。
「琉生! ヨーヨー釣りだよ!」
はしゃいで手招きをする夏鈴に、琉生はやれやれと首を振りながら歩み寄る。
「うーん、うまくできない」
唸る夏鈴から、ひょいと琉生が釣り竿を取り上げた。
「貸してみろ。⋯⋯ほれ」
「え!? また3秒で!?」
琉生はいとも簡単にカラフルなヨーヨーを釣り上げ、夏鈴の手の上に置く。
「すごーい! ありがとう!」
楽しそうな笑顔の夏鈴をちらっと見て、「べつに」と琉生はそっぽを向いた。その視線の先では、屋台の店主が笑顔でサムズアップしていた。
「琉生って、けっこう3秒にこだわってるの?」
ヨーヨーを手で弄びつつ、神社へ向かいながら夏鈴が尋ねる。
「まあ、そうだな。俺の中での3秒ルールがあるんだよ。即断即決が俺の信条だから」
「そっかー。たしかに、琉生って思い切りがいいよね。早食いは止めたほうがいいけどね」
夏鈴がそう言うと、「お前が⋯⋯」と琉生は言いかけて、言葉を止めた。
「うん? なんか言った?」
「⋯⋯なんでもない。ほら、神社に着いたぞ」
二人は本殿に参拝する列に並んだ。
「知ってるか? 神社で風が吹くときは、神様が歓迎してくれていたり、願いを聞き届けたりしてくれる時らしい」
「そうなの? 知らなかった! 風、吹くといいなぁ」
「しっかり祈れば、風も吹くんじゃね?」
「そうだよね。合格できますように!」
夏鈴は長い間目を閉じ、手を合わせて祈っていた。
本殿に参拝した後、二人はお守りやおみくじを見ることにした。
「琉生、おみくじ引こう!」
「そうだな」
カラカラとくじの棒をかき混ぜ、それぞれ一本ずつ抜き取る。渡された紙を早速見ようとする琉生を夏鈴が慌てて止めた。
「3秒後に、一緒におみくじを開こうよ!」
「いいけど⋯⋯どうした?」
怪訝そうな琉生に、夏鈴は俯きながら言う。
「な、なんか結果を見るのが怖くなっちゃって。凶だったらどうしよう、とか。このままだといつまでも開けないから、琉生の3秒ルールにあやかって、一緒に見れば怖くないかなって思ったの」
「そっか。わかった」
ふっと笑って頷く琉生に、夏鈴は笑顔を取り戻した。
「じゃあ、いくよ! さん、にー、いち⋯⋯」
二人の間を、一陣の風が吹き抜けた。
こちらのお題で書かせていただきました。
ありがとうございます。
爽やかな気持ちで書けました。
画像は、みんなのフォトギャラリーよりお借りしました。
