見出し画像

ドイツ版「ちょっと何言ってるかわかんない」

「ドイツ人は、はっきりものを言いたがる」

こんな話を聞いたことがあるでしょうか。私自身、何度も聞いていたのですが、正直信じてはいませんでした。

しかし、ドイツに滞在して半年が経とうとしている今、ようやくこの言説を目の当たりにすることが出てきたのです。

たとえば、役所の手続きをしているとき。こちらが何かを伝えると、

「言っている意味がわかりません」

と真顔で言われます。

これには驚愕を隠せませんでした。まるで、サンドウィッチマンの「ちょっと何言ってるかわかんない」が現実に起こったようで、「何でわかんねぇんだよ」となりそうでした。

意見をまっすぐ伝えてコミュニケーションをスムーズにしたいドイツ人

後日、ドイツ人のタンデムパートナー(語学練習をするための相手)から詳しく話を聞きました。まず、この「言っている意味がわかりません」という表現は、ドイツで非常に一般的だそうです。「自分がわかっていないという事実を相手に伝えることで、相手とのコミュニケーションがより円滑になるので、とても親切な言葉」なんだとか。

また、別の例を挙げてもらいました。

例① 美容院に行った友達から「この髪型どう?」と尋ねられたとき「似合わないと思う」と言っても失礼には当たらない。

例②「今からカフェ行かない?」と誘われて「今日はゆっくりしたいから行かない」と答えても失礼には当たらない。

「もちろん、その人との関係性に拠るけど」とした上で、「自分の意見を素直に相手に伝えられている、という部分が評価に値する」と。

これを日本語に置き換えて考えた場合、どうでしょうか? 本音トークができる相手ならまあいいか、という感じですが、それにしてももう少し親切な言い方があるのでは? とも感じます。

さらに彼が続けます。

「日本語は婉曲的な言い方が多くて、本当は何が言いたいのかがわからない。日本人の友人を誘うとほぼ毎回OKと言われるが、実際どうなんだろう? それはそうと、よければ今度電話しよう。もちろん、気が乗らないならそう言ってね」

ハイコンテクストな日本語とローコンテクストなドイツ語

エドワード・ホールの言語コミュニケーション分類によれば、メッセージを伝達する際に言語以外の要素を重視する度合いが高いのがハイコンテクスト、その度合いが低いのをローコンテクストと言います。

ホールは、ハイコンテクストの最たる例として日本語を、ローコンテクストの最たる例としてドイツ語を挙げています(ローコンテクスト言語としては、ドイツ語だけでなく西洋諸語全般についても言えるのかもしれません)。

確かに、日本人が電話で「〇〇さんはいらっしゃいますか?」と言った場合、文面だけ見れば「いるか・いないか」の2択しかないのに、実際は「少々お待ちください」と言って電話を替わってくれることを期待します。

また、比較的新しい表現として、断る際の「結構です」を「大丈夫です」と言ったり、「行けたら行く」という言い方で「行きたくない」を暗示したり、日本語のハイコンテクスト性は今後も衰退する気配はありません。

京都の都市伝説たる「ぶぶ漬けでも食べはります?」で「帰りやがれ」を示唆する文は、超ド級ハイコンテクストとでも言えましょうか。

逆にドイツ語の場合は、文として書かれた/言われた通りに理解され、そこに「行間を読む」という概念がほぼないと考えられます。彼らにとっては、接続法によって表される文法的な婉曲表現だけで十分なのかもしれません。これが「ドイツ人は、はっきりものを言いたがる」と日本で言われる所以のようです。

つまり、我々日本人にとってはドイツ人の言葉が非常にストレートでどぎつく感じられ、またドイツ人がなかなかこちらを察してくれない人々に見え、ドイツ人にとっては日本人が何が言いたいのかいまひとつわからない人々に見えているのかもしれません。

したがって、以前記事のタイトルにした「ドイツは主張した者勝ち?」という仮説は、主張した者を優遇したいのではなく、主張しないとわかってもらえないために、結果的には真となりそうです。

ドイツ語のローコンテクスト性を活かしてドイツで楽に生きる

このローコンテクストと言われるドイツ語、初めこそ面食らってしまいますが、むしろ慣れれば便利でもあります。

たとえば、仕事で接客をするとき。日本だとこんな感じです。

客「〇〇はありますか?」
私「申し訳ございません。当店では〇〇を扱っておりません」
客「え、そうなの? なんで無いの?」
私「はい、申し訳ございません。理由は私ではわかりかねるのですが、恐らく・・・だと思われます」

一方、ドイツではこんな感じ。

客「〇〇はありますか?」
私「ありません」
客「え、そうなの? なんで無いの?」
私「わかりません」

こだわりポイントとしては、イエスorノーの質問にはイエスorノーのみで答え労力を省略し、よく考えたら私個人が悪いわけではないので謝罪も省略、そしてわからないことに推測で答えることはせず素直に「わかりません」と伝える。

これが可能になる理由は、もちろん言語の特性だけではなく、ドイツの労働環境にもあるわけですが、仕事以外の会話でも婉曲表現や行間にこだわる必要はあまりなさそうです。

ただでさえ労力を消費する海外暮らし、手を抜けるところは抜くという心構えでいきたいものです。

いいなと思ったら応援しよう!