アナログとデジタルの境界線の先にあるTRPG体験 ー身近な機材で実現するVTT連携の未来ー
以前、65インチディスプレイを使ったデジタルバトルマップについて記事を書きました。
大型ディスプレイの上にマップを表示し、その上で物理ミニチュアを動かして遊ぶ。
イニシアチブはVTT(Virtual Tabletop)で管理する。
紙のマップとVTTの中間のような遊び方で、私自身とても気に入っています。
仕組みの更なる改良を目的に、以前公開した65インチデジタル卓の英語版記事を使って海外のTRPGプレイヤーたちと意見交換をしたところ、物理ミニチュアの楽しさを残したまま、VTTの便利な機能も利用できないかという話題が挙がりました。
これは実際に私が遊んだ時も、プレイヤーたちと交わした会話と同じでした。きっと世界中の誰もが思い描く内容なのでしょう。
実は、そんな夢を実現できる仕組みは既に存在しています。Foundry VTT の
Material Planeをはじめ、物理的な駒やトークンとVTTを連携させる試みは数多く行われてきました。
しかし、それらの多くは専用ハードウェアを必要とし、誰もが気軽に導入できるとは言い難いものでした。
もし、スマートフォンのような身近な機材だけで同じ方向性を実現できたらどうだろう。
物理ミニチュアを使いながら、効果範囲表示や視界管理といったVTTの機能を利用する。
そして、その過程で戦況そのものをデータとして記録できるようになったらどうだろう。
この記事は、そんな「誰でも使えるVTT連携」の未来の可能性について考えてみた記録です。
1. 物理ミニチュアとデジタル機能、「いいとこ取り」の探求
大型ディスプレイの上にマップを表示し、その上で物理ミニチュアを動かして遊ぶ。この形式は、紙のマップセッションとVTTの中間にあるような体験を提供してくれます。
実際に運用してみると、非常に満足度の高い仕組みでした。マップの準備や切り替えはデジタルならではの利便性がありながら、プレイヤーは従来通りミニチュアを手で動かし、テーブルを囲んで遊ぶことができます。
しかしセッションを経験した人の多くは、こう思います。
「もっと、デジタルとの融合ができたら便利なのに」
私は物理ミニチュアの楽しさを残したまま、VTTの機能を利用する方法、つまりVTT連携について考えるようになりました。
2. VTT連携が実現する利便性
物理ミニチュアを使ったセッションのVTT連携が実現すると、なにがおきるでしょうか。
例えば戦闘中。 ドラゴンがブレスを放つ。 Fireballが炸裂する。
こうした場面では、VTTは効果範囲を瞬時に表示できます。
また、暗闇や光源の管理も非常に得意です。 誰が何を見えているのか。
松明の明かりはどこまで届くのか。
暗視を持つキャラクターは何を見ることができるのか。
そうした情報を直感的に表現できます。
さらに、飛行クリーチャーが登場するような三次元戦闘になると、その差はさらに大きくなります。
高度や位置関係を正確に管理しながら戦闘を行うことは、物理卓だけでは決して簡単ではありません。
もちろん物理ミニチュアを動かす感触や、卓上に広がる立体的な戦場には独特の魅力があります。
しかし同時に、VTTが持つこうした機能にも大きな価値を感じています。
ではどうすれば、VTT連携が実現できるのか。
ミニチュアが今マップ上のどの場所にいるのか、デジタルで認識させることです。
3. アナログとデジタルの自然な共存
もしミニチュアの位置を認識し、それをVTT側の該当するトークン情報へ反映できるようになれば、VTTの利点を物理卓で受けることができます。
プレイヤーは今まで通りミニチュアを手で動かします。
サイコロを振り、キャラクターシートを使い、テーブルを囲んで遊びます。
しかしその裏側では、VTTが位置情報を管理し、必要な場面だけデジタルの情報を提供します。
効果範囲の表示や視界管理、高度情報の処理は自動的に行われ、卓上のディスプレイに表示されます。
普段は物理卓として遊びながら、追加の情報をデジタルが補助してくれるのです。
私が面白いと感じているのは、ここです。
デジタル卓で遊ぶのでもなく、物理卓だけで遊ぶのでもない。
アナログとデジタルが自然に共存する卓です。
4. 誰もが遊べる仕組みへ
実は、この発想自体は新しいものではありません。 代表的なものとしてFoundry VTTには Material Planeという素晴らしいプロジェクトが存在し、物理的な駒やトークンとVTTを連携させる試みが既に行われています。
他にも世の中には同様なプロジェクトが複数存在しているかと思います。
ただし、それらのほとんどはセンサーなどの専用ハードウェアを必要とし、導入に一定のハードルが存在していることがほとんどでした。
だからこそ私は、「今誰もが持っているスマホで実現できないだろうか」と考えました。
そこで思いついたのが、カメラによって盤面を認識するというアイデアです。
テーブル上のミニチュアを撮影し、その配置をデジタル側へ取り込むことができれば、VTTとの連携も可能になります。
この構成は、つまり既存プロジェクトが専用の機器で実現していたことを、AIを含むソフトウェアでカバーするということです。最初はかなり大掛かりな仕組みを想像していました。
しかし、TRPGはターン制です。考えてみれば、常に盤面を追い続ける必要はありません。
手番が終わったタイミングで盤面を読み取るだけでも、十分に成り立つのではないか――そう気付いたとき、この構想はぐっと現実味を帯びました。
ミニチュアを動かし、手番後にスマホで盤面を撮影。
後はその情報を自動的にアプリが解析し、VTT側へ反映させ状況を更新する
これなら十分成立しそうで、必要な技術と機器のハードルは一気に下がります。
画像認識技術などの発展を考えると、この仕組みは現段階の技術やリソースで充分実現可能なように思えます。
利用者は高価な専用機材は不要、手元にスマホがあれば誰でも未来の卓を囲めるようになるのです。
そして、その過程で盤面情報や位置情報が蓄積されていくのであれば、それはまた別の可能性へ繋がっていきます。
5. 副産物:データ化による新しいリプレイ
検討を進める中で、面白い副産物に気付きました。
ミニチュアの位置をVTTへ反映しようとすると、その過程で盤面の詳細情報、つまりセッションそのものの履歴が記録されていきます。
例えば、
・ プレイヤーと敵の正確な位置関係と移動履歴
・「誰がどこまで見えていたのか」という視界情報の変遷
・飛行クリーチャーの高度データ
といった情報まで記録できるかもしれません。
そして、それらの情報を時系列に並べれば、一つのセッションログとして扱うこともできます。
さらに、VTT上のデータから動画を生成したり、戦闘の流れを後から振り返ったりといった応用も考えられるでしょう。
写真から作るタイムラプスでは、ミニチュアの陰になった場所は見えませんし、飛行しているクリーチャーの正確な高度を把握することも難しいです。
しかしVTT側に保存されたデータから再生するのであれば、単なるタイムラプスではなく、TRPGセッションのリプレイに近い、非常に見ごたえのあるものになるでしょう。
6. アナログとデジタルの境界線の先へ
このアイデアは、最初は物理ミニチュアとVTTを繋ぐ方法として始まりました。
しかし今では、それ以上の可能性を感じています。
物理ミニチュアの楽しさ、テーブルを囲む体験、 そしてデジタル技術の利便性。
これらは必ずしも対立するものではありません。
アナログかデジタルか、という二択ではなく、その境界線の先に新しい遊び方があるのかもしれません。
今回紹介したのは、まだ構想段階のアイデアに過ぎません。
しかし、こうした試行錯誤そのものがTRPGの楽しさでもあります。
未来の卓はどんな形になるのでしょうか。
まだ単なる思考実験の段階ですし、私自身が実現できるかどうかも分かりません。
むしろ、誰かが実現してくれるのであれば、それはとても面白いことだと思っています。
Material Planeなどの先行プロジェクトが示した方向性は非常に魅力的です。
しかし、その仕組みをもっと多くの人が気軽に利用できる形にできないでしょうか。
スマートフォンなど既存の機材だけで実現できる方法はないでしょうか。
今回の記事は、その問いについて考えた記録です。
