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わたしは旅が好きではない

わたしはたぶん、旅が好きなわけではない。

この4年間で、世界44ヵ国45都道府県も巡ったくせに、である。「旅好きなんですね」と言われるようになって久しいが、そのたびに「まぁ、そうですねぇ」となんとも煮え切らない返事をしてしまう。

自ら「ここに行こう!」とはりきって計画を立てたこともないし、ましてやひとり旅を企てたこともない。以前、出張で富山県に行ったときに「ついでに宇奈月温泉に行ってみるか」と思い立って行ってみたが、街中をぐるりと歩いただけで、あとはホテルに引きこもってひたすら温泉に入って寝た。食べるものを求めて渋々行った居酒屋では、カウンター席に座って誰とも喋らずにSNSをガン見しながらビールを煽った。

ひとり旅の醍醐味は地元の人々との語らいや偶発的な出会いらしいが、わたしは極度の人見知りゆえ、「話しかけんなオーラ」をビンビンに出してしまい、一言も発さずにそそくさと席を立つことがほとんどである。なんで自ら知らん人と喋らなあかんねん。

ひとりでいるのは嫌いじゃないが、ひとり旅はつまらない。旅人というのは旅そのものが好きな人なので、それでいくとわたしは生粋の旅人ではないのだと思う。旅人モドキだ。

それでも、わたしが旅に出かけるのは友だちがいるからだ。友だちがいるから、旅は楽しいのだ!

そのことに気付いたのは、社会人2年目で行ったモルディブ旅行である。友だちとふたりきりでの海外旅行は初めてで、往復8万円の格安航空券を握りしめ、たったの数時間だけマレーシアで過ごすというはちゃめちゃなトランジットすら新鮮で楽しかった。

モルディブはリゾート地として有名だが、いかんせん海しかないので2日目にはただ泳ぐことにも飽きてしまい、BONNIE PINKの「A PERFECT SKY」に合わせてプロモーションビデオを撮る、という一大プロジェクトを始めた。

髪をかきあげながらビーチサイドをモデル歩きし、砂浜で両足を埋めて人魚を型どりポージングをする。スローモーションで水飛沫をあげながら海に飛び込み、波打ち際に描いた2人の名前が波にさらわれていく様を撮る。できあがったビデオはめちゃくちゃ”それっぽく"撮れていて、砂の上でゲラゲラ爆笑した。エメラルドグリーンに光るモルディブの海は、彼女と一緒に見るからこそ、よりキラキラに輝いて見えた。

小さいころ、夕暮れどきに友だちと別れるのが嫌で「お泊まりしよーよー」と駄々を捏ねて母を困らせていたのを思い出す。だって、お泊まりをすれば、時間を気にせずに遊んでいられるし、一緒に夜ごはんを食べたりお風呂に入ったりできるし、朝起きてからもたっぷり遊べる。ビバ!お泊まり!を実現するために、家のなかでかくれんぼをするなどして、親がため息を吐いて「しょうがないなぁ」と諦めるのを辛抱強く待った。(そして大体実現しなかった)

そんなスペシャルイベント「お泊まり」を大人として合法的にできるのが「友だちとの旅行」なのである。暑いぃ喉乾いたぁカフェ行きたいぃと言いながら街を練り歩き、きゃいきゃい映えスポットで動画を撮って、地元の料理に舌鼓を打ちながらビールを飲んで、ベッドの上で恋バナとかをしているのが最高に楽しいのである。それをあえて表参道ではなく、イタリアとかハンガリーとかでやるのがオツなのである!

大人になると、「1日中友だちと一緒にいる」というイベントが少なくなる気がする。学生のころは毎日登校すれば会えて、一緒に授業を受けて、休み時間のたびに他愛のない話をして、放課後はスタバでだべって…というのが当たり前だったが、社会人になると「ヌン活」「ランチ」「サク飲み」が定番で、たまにディズニーに行ったり映画に行ったりフェスに行ったりする程度。

そんなちょびっとの時間では、近況報告だけで終わるのが関の山だ。でも、旅のあいだは時間がたっぷりとある。「あんた、わたしのどこが好きなわけ?」とか踏み込んだ話もできるし、「全然どうでもいいんだけどさぁ」から始まる不要不急の話にも耳を傾けることもできる。究極的には、飛行機のなかでふたりで並んでじっと黙って本を読んでいるのでもいい。ホテルのベッドでスマホをいじっているだけでもいい。

もちろん、ブダペストのキラキラの夜景やサントリー二島の白と青の建物群など、日常では見ることのできないような美しい景色を見たときには心を打たれるし、東南アジアのまったく舗装されていないガッタガタの道をバイクタクシーで爆走するなどの独特のカルチャーに度肝を抜かれるのも面白いし、アルバニアで夜行バスに置き去りにされかけるなどのハプニングも嫌いではない。

でも、その瞬間をひとりで噛み締めるのではなく、「おいしいねー」とか「綺麗だねー」とか「ヤバいねー」とか言い合いたいのである。

ただそれだけのために、わたしは旅に出かける。「次どこ行くー?」と友だちにLINEする。

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いしかわゆき(ゆぴ) | ライター・エッセイスト サポートは牛乳ぷりん貯金しましゅ