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製造業向け|現場リーダーを“便利な多能工”にしてはいけない|全体を見る時間が消える職場の危うさ

「あの人なら、どこでも入れるから」

現場では、こんな言葉がよく出ます。

加工も分かる。
組立にも入れる。
検査も見られる。
出荷前の判断もできる。
人が足りなければ応援に回れる。

たしかに、頼れる存在です。

でも、その人を毎日作業者として予定に入れてしまった瞬間、現場は別のものを失います。

全体を見る目が消えるのです。

どこが詰まりそうか。
誰に負荷が寄っているか。
同じ確認が何度も起きていないか。
後ろの工程で手直しになりそうな部分はないか。
若手が何を見落としているのか。

作業に入れば、その工程は進みます。
ただ、機械の前に立っている間、工場全体の流れは見えにくくなる。

現場リーダーの仕事は、何でもこなすことではありません。

現場を止めないことです。

多能工という言葉が、便利に使われすぎている

製造現場では「多能工」という言葉がよく使われます。

いろいろな工程を理解している人。
欠員が出ても応援に入れる人。
急な予定変更にも対応できる人。

もちろん、できることが多いに越したことはありません。

加工だけしか分からないより、組立後の納まりも見えていた方がいい。
前の工程だけでなく、梱包や出荷側の苦しさも知っていた方が判断は深くなる。
検査の目線を持っていれば、製作中に危ない箇所も拾いやすい。

多能工は、本来とても大事な力です。

ただ、使い方を間違えると危ない。

「あの人は何でもできる」
「空いているところに入ってもらおう」
「分かっている人がやった方が早い」
「困ったらリーダーに回せばいい」

そうやって、リーダーが常に作業の穴埋めに使われていく。

それは多能工ではありません。

ただの便利な人です。

本来の多能工は、何でも抱え込む人ではないはずです。
工程をまたいで理解しているからこそ、全体のズレに気づける。
前後のつながりを見て、どこで止まりそうか判断できる。
作業者が気づきにくい無駄や偏りを拾える。

そこを間違えると、現場リーダーはいつまでも作業者の延長で使われ続けます。

人が同時に見られる範囲には限界がある

人は、何でも同時にはできません。

機械に向かっていれば、加工条件や寸法に意識が向きます。
組立に入れば、納まりや仕上がりを見る。
検査をしていれば、確認項目に集中する。

それは当たり前です。

目の前の仕事に集中できなければ、品質は安定しません。

ただし、集中するほど周りは見えにくくなります。

材料を何度も取りに行っている。
同じ工具を何人も探している。
図面確認で人が行ったり来たりしている。
後ろの工程が待っているのに、前の工程では気づいていない。
毎回同じ場所で手直しが出ている。

作業者本人には、それが日常になっている場合があります。

動いている最中は、無駄だと思わない。
探し物も「よくあること」で終わる。
少しの手直しも「直せたから大丈夫」になってしまう。

一歩引いて見た時、初めて見えるものがあります。

そこに気づくのが、現場リーダーの役目です。

リーダーは常時作業者でなくていい

リーダーが作業に入る場面はあります。

欠員が出た時。
急ぎ案件で一時的に人が足りない時。
品質上、経験者が入らないと危ない時。
納期を守るために、どうしても支援が必要な時。

そういう場面で入れるのは、大きな強みです。

ただ、最初から作業者の人数に組み込んでしまうと、リーダー本来の仕事が消えます。

今日、何を優先するのか。
誰をどこへ入れるのか。
後ろの工程を詰まらせないために、どの案件を先に通すのか。
どの作業を止めれば、後の手直しを防げるのか。

そういう判断は、誰かが見ていなければ流れていきます。

全員が手を動かしている現場は、一見よく動いているように見えます。

でも、誰も一歩先を見ていないなら危ない。

目の前の仕事は進んでいる。
けれど、明日の段取りが崩れている。
午前中は忙しく動いたのに、午後には後工程が詰まっている。
作業者は足りないと言っているのに、実際は探す、待つ、戻る、聞きに行く時間が残っている。

人手不足に見えて、流れの悪さだった。

現場ではよくあります。

教える時間は、改善を見つける時間でもある

教えることは、若手のためだけではありません。

リーダー自身が、自分の仕事を見直す時間でもあります。

人に説明しようとすると、今まで感覚で済ませていた部分を言葉にしなければなりません。

どこを先に見るのか。
どの状態なら止めるのか。
なぜ、その順番で進めるのか。
どこまでなら自分で判断してよいのか。

自分では当たり前にやっていたことが、説明してみると意外と言葉にならない。

そこに気づきがあります。

「この確認、毎回同じところで止まっているな」
「工具を探す動きが多いな」
「若手が迷う場所は、だいたい同じだな」
「作業順を変えれば、戻りが減るかもしれない」

こういう発見は、手を動かしているだけでは拾いにくい。

教える時間は、教育の時間であり、改善の時間でもあります。

第三者的な目で見るから、無駄な作業や余計な動きに気づける。
その気づきが、次の改善につながります。

だから、リーダーの管理時間は余り時間ではありません。

現場を強くするための時間です。

作業者の視野が狭くなるのは自然なこと

作業者の視野が狭いと言うと、少し悪く聞こえるかもしれません。

でも、現場では自然なことです。

目の前の寸法を見る。
仕上がりを確認する。
納期に間に合わせる。
次の工程へ渡せる状態にする。

作業者は、自分の担当をきちんと終わらせるために集中しています。

だからこそ、別の視点が必要になります。

後ろの工程で困らないか。
余計な移動が発生していないか。
負荷が特定の人に偏っていないか。
急ぎ案件に引っ張られて、普通案件が崩れていないか。
若手が失敗する前に、どこで声をかけるべきか。

メンバーより一歩先を見る。

言葉にすると簡単ですが、作業に埋もれたままではできません。

リーダーが一番手を動かす人になると、現場はその場では助かります。
しかし、先を見る人を失う。

これが積み重なると、忙しさは減りません。

最適な方法、最適な人数で最高の物を作る

現場リーダーの仕事は、気合いで全部を片づけることではありません。

最適な方法を探すことです。

今やるべき作業は何か。
人数のかけ方は合っているか。
この順番なら後工程が楽になるか。
無駄な移動を減らせないか。
品質を落とさず、もっと手離れの良い流れにできないか。

こういう判断を積み重ねることで、現場は強くなります。

リーダーは欠員時のサポート役でもあります。
人が足りない時に入れる力は必要です。

ただ、一番大事なのは現場を把握することです。

何を優先し、どこを省き、誰をどこに置くのか。
メンバーの少し先を見ながら、止まりそうな場所を先に拾う。
最適な人数で、最適な方法を選び、最高の物を作れる状態へ近づける。

それがリーダーの仕事です。

「多能工だから何でもやらせる」

この考え方では、リーダーは便利に使われるだけになります。

何でもできる力は、全部を抱えるためにあるのではありません。
現場全体を見て、必要な時に必要な場所へ入るためにある。

そこを間違えると、人は育たない。
改善も生まれない。
現場はずっと忙しいままです。

便利な多能工で終わらせない

現場リーダーを作業者として予定に入れると、その日の人員表は埋まります。

でも、段取りを見る時間は消えます。
教育する時間もなくなります。
改善を考える余白も削られます。
現場全体を把握する人もいなくなります。

それで現場が乱れた時だけ、リーダーの責任になる。

これは厳しいです。

リーダーに必要なのは、何でもやらせることではありません。
現場を見る時間を持たせることです。

作業に入れば、一つの工程は進みます。
一方で、全体を見る目が消えれば、工場は強くなりません。

便利な多能工として使い続けるのか。
現場を止めないリーダーとして機能させるのか。

そこを曖昧にしたままでは、リーダーだけが疲れていきます。


現場リーダーが疲弊する原因は、本人の能力不足だけではありません。
責任・教育・判断・人の偏りをどう扱うかで、現場の負担は大きく変わります。

その考え方をKindle本にまとめました。

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