製造業向け|問題に気づいた人が、嫌がられる職場は危ない
「ここ、少し傷あります」と言っただけなのに
出荷前の梱包場で、製品の角に小さな傷が見つかる。
もう出荷時間は近い。
伝票も動いている。
積み込みの段取りも見えている。
そこで誰かが言う。
「ここ、少し傷あります」
たったそれだけで、空気が少し重くなる。
「今ですか」
「それ、止めます?」
「このくらいなら大丈夫じゃないですか」
強く責めているわけではない。
けれど、言った人が余計なことをしたように見える。
私は、ここがずっと引っかかっている。
傷を見つけた人は、傷を作った人ではない。
客先へ届く前に、社内で拾っただけだ。
本来なら助かっている。
それなのに、現場ではその人が面倒な人に見えてしまうことがある。
この空気は怖い。
なぜなら、人は「言うと嫌がられる」と分かると、次から黙るからだ。
小さな違和感は、黙っている方が楽になる
言われた側の気持ちも分かる。
あと少しで終わると思っていた仕事が止まる。
人を呼ぶ。
直す。
確認する。
場合によっては出荷の時間も気になる。
正直、きつい。
現場はきれいごとだけで動いていない。
ただ、そこで毎回嫌な顔をされると、気づいた人は少しずつ学んでしまう。
言わない方が早い。
自分で直した方が丸い。
黙って流した方が面倒にならない。
これが一番まずい。
大きな不良なら、まだ止めやすい。
誰が見てもおかしいからだ。
問題は、その手前にある。
少し擦れている。
少し汚れている。
何となく数が合わない。
依頼内容に抜けがある。
このまま進めると後で揉めそうな気がする。
こういうものは、人によって扱いが変わる。
言いやすい相手なら言う。
忙しそうなら飲み込む。
機嫌が悪そうなら避ける。
後で面倒になるなら、自分で何とかする。
そうなると、判断ではなく空気読みになる。
工場の品質の話をしているようで、実は職場の人間関係で決まってしまう。
「何も起きなかった」の裏に、誰かの手間がある
小さな手直しは、消えやすい。
角を少し直した。
汚れを拭いた。
ラベルを貼り直した。
足りない部品を足した。
入力ミスに気づいて、担当者に言う前に直した。
結果だけ見れば、何も起きていない。
出荷できた。
納期に間に合った。
お客様にも迷惑はかけていない。
だから問題に見えにくい。
でも実際には、誰かのひと手間で成立しているだけかもしれない。
私は、ここを軽く見ない方がいいと思っている。
最後の工程が毎回吸収する。
気づいた人が黙って直す。
前の工程には戻らない。
依頼した人も知らない。
これが続くと、職場は静かになる。
ただし、それは良い静けさではない。
言っても変わらないから黙る。
言うと嫌な顔をされるから黙る。
自分が直せば終わるから黙る。
こういう静けさは、かなり危ない。
問題がないのではない。
問題が表に出てこなくなっただけだ。
工場だけの話ではない
これは品質検査だけの話ではないと思う。
納期が危ないと気づいた人。
数字の違和感を出した人。
曖昧な依頼を確認した人。
会議で「それ、決まっていませんよね」と言った人。
本来なら、会社を守っている。
でも職場によっては、その人が空気を乱したように見られる。
「細かい」
「今それを言う?」
「とりあえず進めればいいのに」
こう言われると、人は次から慎重になる。
正しいかどうかより、言ってよい空気かどうかを先に見るようになる。
その時点で、職場は少し弱くなる。
問題に気づく人は、波風を立てたいわけではない。
あとで大きなことにならないように、今のうちに声を出している。
もちろん、言い方は大事だ。
何でも止めればいいわけでもない。
現場には納期も原価もある。
でも、それでも、気づいた人を嫌がる空気は作らない方がいい。
「教えてくれて助かった」
「まず状態を見よう」
「次からどこで拾えるか考えよう」
この順番で受け取れるだけで、かなり違う。
問題に気づいた人が嫌がられる職場では、いつか誰も言わなくなる。
一見、平和に見える。
揉めごとも少ない。
指摘も減る。
でもそれは、良くなったのではなく、黙る人が増えただけかもしれない。
「ここ、少しおかしいです」
この一言が普通に言えるかどうか。
職場の強さは、案外そういうところに出るのだと思う。
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