製造業向け|仕事を横流しする人は、現場の損失を見ていない
「これを作って欲しいので指示書出しておきます」
営業からそう言われて、図面や資料一式を渡されることがあります。
渡す側からすれば、それで仕事は一つ片付いたように見えるのだと思います。
資料を受け取った。
現場に回した。
あとは出来上がるのを待つだけ。
でも、現場ではそこから仕事が増えます。
図面を開いて、まず確認しなければならない。
これは本当にうちで作るものなのか。
どこまでが今回の範囲なのか。
支給物なのか、こちらで購入するものなのか。
仕上げは必要なのか。
図面通りに作るのか、作りやすく変えていいのか。
こういうことが整理されていないまま流れてくると、現場は作る前に図面をほどくことになります。
渡した側は困りません。
多少時間がかかっても、最終的に物が出来上がればいい。
でも工場側では、その間に時間を使っています。
余計な確認をして、材料を調べて、作り方を考えて、不明点を聞きに行っている。
その時間は、なかなか損失として見えません。
でも確実に工場側から消えています。
聞きに行って初めて分かる仕様
以前、図面一式を渡されて内容を確認していた時、不明瞭なところがありました。
気になって聞きに行くと、
「それは支給物です」
「そこは仕上げなくていいです」
「その部分は作りやすく変えて大丈夫です」
そう言われたことがあります。
その時に思いました。
それなら、最初から言ってほしい。
聞きに行ったから分かっただけです。
もし何も確認せずに進めていたら、支給物をこちらで購入していたかもしれません。
仕上げなくていい場所を、丁寧に仕上げていたかもしれない。
作りやすく変えていい部分を、図面寸法に合わせようとして、余計な加工方法を考えていたかもしれない。
現場の人間は、図面を無視したいわけではありません。
むしろ、図面に書いてあるから守ろうとします。
だから怖いのです。
あとから「そこはやらなくてよかった」と言われても、図面だけを見ている側には分かりません。
支給物だと聞いていなければ、購入品として拾ってしまうこともあります。
変更していいと知らなければ、多少無理があっても図面通りに作ろうとします。
その結果、材料費も工賃も時間も余計にかかる。
でも、その損失は図面を横流しした人には見えません。
工場の中で、静かに吸収されていきます。
横流しした人の仕事は早く終わる
仕事をそのまま流す人は、自分の手離れを早くしているだけなのかもしれません。
届いたものをそのまま送る。
一式まとめて現場に回す。
細かいことは、受け取った人に見てもらう。
たしかに、渡す側の時間は短くなります。
でも、短くなった分の手間は消えていません。
後ろの人に移っているだけです。
現場はその仕事をほどきます。
どこまで作るのか。
何を買うのか。
何を買わなくていいのか。
どこを仕上げるのか。
どこは触らなくていいのか。
こういう確認を、作る前にしています。
そして、この時間は見えにくい。
材料を切っているわけではない。
機械を動かしているわけでもない。
目に見える形で物が進んでいるわけでもない。
それでも、工場の時間は使われています。
「出来上がったからいい」ではありません。
出来上がるまでに、どれだけ余計な確認や判断が入ったのか。
不要な手配をしていないか。
本来やらなくていい加工をしていないか。
そこまで見ないと、工場側の損失は分かりません。
見積りでも同じことが起きる
これは現場への作業指示だけの話ではありません。
見積りでも同じです。
顧客から来た図面一式をそのまま送られて、
「概算でいいから急ぎで」
「作れるものだけ拾って」
「ざっくり金額を出して」
と言われることがあります。
簡単に言われますが、こちらはまず仕分けから始めます。
どれが見積り対象なのか。
こちらで作るものはどれなのか。
外注品や支給物が混ざっていないか。
特殊素材ならどう施工するのか。
そもそも自社で作れる形状なのか。
そこを見ないまま、金額だけを出すことはできません。
概算という言葉は便利です。
でも、概算を出すにも時間はかかります。
図面を読みます。
材料を調べます。
工数を考えます。
必要なら外注先にも確認します。
作れるかどうかも判断します。
それをやった後で、
「指値はいくらだから高い」
と言われることがあります。
それなら、最初に言ってほしい。
先に上限が分かっていれば、材料費を見た時点で判断できます。
工賃を考えた段階で、成立しないと分かることもあります。
そもそも見積りに時間をかける意味がないと判断できたかもしれません。
見積りは無料だと思われがちです。
でも、見積りに使った時間は無料ではありません。
誰かの仕事時間です。
工場側の時間です。
後から指値を出されると、それまでの確認や拾い出しが無駄になることがあります。
その損失も、結局は工場側に残ります。
完璧な資料を求めているわけではない
もちろん、すべてを完璧にしてから渡してほしいと言っているわけではありません。
製造業では、決まっていないこともあります。
顧客から情報が足りないこともある。
急ぎで進めなければならない場面もあります。
それは分かります。
ただ、分かっていることまで隠れたまま流さないでほしいのです。
支給物なら支給物。
仕上げ不要なら仕上げ不要。
対象外なら対象外。
変更可能なら変更可能。
指値があるなら指値あり。
未確定なら未確定。
これだけでも、現場の動き方は変わります。
現場が困るのは、分からないことがあることではありません。
分かっていないのに、分かっているような顔で仕事が流れてくることです。
決まっていないのに、決まっているように見えることです。
後で出せる条件を、最初に出さないことです。
そのたびに、現場は確認し直します。
判断し直します。
手を止めます。
見えにくいだけで、そこには必ず時間がかかっています。
仕事を渡すなら、損失がどこに出るかまで見てほしい
仕事を横流しするのは簡単です。
図面をそのまま送る。
資料をそのまま渡す。
「現場で見ておいて」と言う。
それで渡した側の仕事は早く終わるかもしれません。
でも、その先で誰かが解読しています。
誰かが確認しています。
誰かが判断しています。
場合によっては、余計な材料を買い、不要な仕上げをし、必要のない加工方法まで考えています。
その損失は、渡した側には見えません。
出来上がれば問題ない。
納まれば問題ない。
金額が出れば問題ない。
そう見えるかもしれません。
でも工場側では、その前に時間が使われています。
本来なら防げた手間が積み重なっています。
誰かが黙って穴を埋めています。
仕事を渡すなら、相手が動ける状態にして渡す。
分かっている条件は先に出す。
分からないことは、分からないと伝える。
それだけで防げる損失があります。
仕事を横流しする人は、自分の時間を節約しているようで、現場の時間を使っています。
その時間は、見えにくいだけで、確実に工場側から失われています。
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