製造業向け|なぜ現場は何も言わなくなるのか|意見が出ない工場で起きていること
その沈黙は、本当に納得している沈黙なのか
会議で、よくある場面です。
「何か意見ありますか」
そう聞いても、誰も話さない。
資料を見ている人がいる。
下を向いている人もいる。
誰かが先に言うのを待っているような空気だけが、少し残る。
しばらくして、最後はこうなります。
「特にないなら、この方向で進めます」
反対は出なかった。
文句も出なかった。
会議も荒れなかった。
これだけ見れば、全員が納得したように見えます。
でも、工場の現場ではそう単純ではありません。
本当に意見がないのではなく、言わなくなっているだけのことがあります。
図面の違和感に気づいている。
納期が危ないことも分かっている。
後工程にしわ寄せが来ることも見えている。
前にも同じところで止まったことを覚えている。
それでも口に出さない。
なぜか。
言った先に、何が起きるかを知っているからです。
意見を言う人は、だいたい決まっている
どこの現場でも、意見を言う人はだいたい決まってきます。
「これ、前回と仕様が違いませんか」
「この納期だと後ろが厳しいです」
「ここを決めておかないと、あとで止まります」
「このまま進めると、手直しになる気がします」
こういうことを言う人です。
本来なら、ありがたい存在です。
早い段階で止めてくれる人がいるから、不良になる前に気づける。
出荷前に慌てる前に、手を打てる。
後ろの工程が苦しくなる前に、段取りを変えられる。
ところが、実際の扱いは少し違います。
「あの人に言うと細かい」
「あの人はすぐ止める」
「あの人は納得しない」
「あの人は扱いづらい」
こう見られていくことがあります。
ここに現場の矛盾があります。
意見を言う人は必要です。
でも、意見を言う人ほど面倒な人として扱われる。
そして、面倒な人には、だんだん仕事を振らなくなる。
難しい案件を相談しない。
判断が必要な場面から外す。
波風を立てない人に回す。
とりあえず黙って進めてくれる人に任せる。
一見、現場は静かになります。
でも、それは良くなったわけではありません。
問題に気づく人を、仕事の中心から遠ざけただけです。
ただ、声を出す人がいつも正しいわけでもない
ここは、きれいごとでは済みません。
意見を言う人が、いつも工場全体を見ているとは限らないからです。
現場には、文句もあります。
「これはうちの仕事じゃない」
「聞いていない」
「前工程が悪い」
「こっちに回されても困る」
こういう声です。
言っている内容が間違っているとは限りません。
本当に担当範囲が曖昧なこともある。
前の工程で止めるべきものが、後ろに流れてきていることもある。
ただ、その発言の奥にあるものは見た方がいい。
工場全体を良くしたいのか。
品質を守りたいのか。
納期を守るために先に言っているのか。
それとも、自分の仕事量を増やしたくないだけなのか。
自分のミスは横に置いて、他人のミスだけを責めているのか。
現場には、そういう声もあります。
自分が遅れた時は「忙しかった」。
他人が遅れた時は「段取りが悪い」。
自分が見落とした時は「聞いていない」。
他人が見落とした時は「確認不足だ」。
こういう人の声が大きいと、管理する側は判断を間違えます。
声が大きいから、現場の代表意見に見える。
よく話すから、問題意識が高いように見える。
でも実際には、自分のキャパを超える仕事を避けたいだけのこともあります。
だから、意見が出ること自体を良いこととして扱うのも危ない。
大事なのは、声の大きさではありません。
その発言が、何を守ろうとしているのか。
自分を守る声なのか。
誰かを責める声なのか。
それとも、工場全体を守るための声なのか。
ここを分けないと、声の大きい人だけが得をします。
まじめな人ほど、黙っていく
一方で、本当に全体を見ている人ほど黙ることがあります。
気づいている。
危ないとも思っている。
後で問題になることも、たぶん分かっている。
それでも言わない。
理由は単純です。
言えば、自分が拾うことになるからです。
「気づいたなら、見ておいて」
「そこまで言うなら、改善案を出して」
「止めるなら、代案はあるのか」
「じゃあ次から担当して」
こういう返され方を何度か経験すると、まじめな人ほど疲れます。
責任感のある人は、放っておけません。
困っている人がいれば手を貸す。
後工程が詰まりそうなら先に動く。
出荷前に揉めそうなところがあれば、少し早めに確認する。
でも、それが続くと、気づく人にだけ仕事が集まります。
拾う人にだけ負担が寄る。
声を出した人が、最後まで面倒を見ることになる。
しかも、それが当たり前のように扱われる。
そうなると、まじめな人は学びます。
言わない方が楽だ。
気づかなかったことにした方がいい。
また自分がやることになる。
どうせ変わらない。
これは怠けではありません。
諦めです。
本当に怖いのは、声の大きい人が文句を言うことではありません。
本当に見えている人が、静かに諦めていくことです。
扱いやすい沈黙は、工場を弱くする
管理する側から見ると、何も言わない現場は楽です。
反対がない。
確認も少ない。
決めたことがそのまま通る。
会議も早く終わる。
でも、それは管理できている状態とは違います。
ただ、問題が上がってこないだけかもしれません。
図面の違和感。
作業負荷。
納期の危なさ。
品質の不安。
後工程に来るしわ寄せ。
こういうものが、現場の中で止まっている。
その状態で上だけが判断すれば、当然ズレます。
ズレた判断のしわ寄せは、また現場に戻る。
現場はさらに黙る。
管理側はさらに見えなくなる。
問題が大きくなってから、ようやく気づく。
この流れに入ると、工場は静かに弱くなります。
最後に残るのは、扱いやすい沈黙です。
誰も反対しない。
誰も止めない。
誰も面倒なことを言わない。
その代わり、誰も早い段階で危険を拾わなくなる。
面倒な人が、面倒な問題を先に見つけていることもある
意見を言う人は、正直に言えば扱いにくいことがあります。
話が止まる。
確認が増える。
予定通り進まない。
空気が少し重くなる。
でも、その人が面倒なのではなく、面倒な問題を先に見つけているだけの場合があります。
ここを間違えると、本当に必要な声まで消してしまいます。
もちろん、文句と意見は分けなければいけません。
自己防衛の声を、そのまま現場の代表意見にしてはいけない。
他人にだけ厳しい発言を、改善意見のように扱うのも危ない。
ただ、都合の悪い意見をすべて「文句」として片付けるのも違います。
現場に必要なのは、何でも黙って受ける人だけではありません。
時々止める人。
違和感を拾う人。
納得できないことを聞く人。
後工程の危なさを先に言う人。
そういう人も必要です。
扱いやすい人だけで回す工場は、一見スムーズです。
でも、止める人がいない工場は、危ないまま進みます。
現場が黙った時ほど、よく見た方がいい
現場が何も言わない。
会議で意見が出ない。
若手もベテランも黙っている。
それを見て、問題がないと判断するのは危険です。
本当に何もないのか。
それとも、言わなくなっただけなのか。
ここは分けて見た方がいいです。
意見を言う人の中には、自分を守るための文句もあります。
他人に厳しく、自分に甘い声もあります。
一方で、本当に全体を見ている人ほど、諦めて黙っていることもあります。
だから、声の有無だけでは現場は分かりません。
誰が言っているのか。
何を守ろうとしているのか。
なぜ、まじめな人が黙ったのか。
なぜ、扱いやすい人だけが残っているのか。
そこまで見ないと、工場の本当の状態は見えてきません。
意見が出ない工場は静かです。
でも、その静けさが安心とは限りません。
現場が黙っている時ほど、管理側の姿勢が見られているのだと思います。
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