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みみひげしっぽ通信 第16号

京都からお届けする、小さな三本立て通信。偏愛と日常と、ちょっとAI。

20年以上ベリーショートだった髪が、約一年の忍耐の末、やっとショートボブくらいまで伸びました(オット、大喜び)。
でもきちんとヘアアイロンで伸ばさないと、くしゃくしゃの紙みたいなんです!
ああああああ、めんどくせーーーー!!!!(心の叫び)

今回からしばらく、いつもの三本立てをお休みして、
「父の元カノ」という話を続けます。
よろしければ、お付き合いください。



【特別編】父の「元カノ」①

背後から、アルトの落ち着いた声がした。
「良かったら、これ、使ってください。粗末なものですけど……」
大荷物を提げた、化粧っ気のない小柄な老婦人が、おたおたしているわたしにマスクを差し出してくれている。助かった!

実家の父が倒れたという知らせに、大津から松山の病院へ駆けつけたが、大慌てのわたしは、病院では今もマスクが必須なことなど、きれいさっぱり頭から消えていた。
次の瞬間、お互いにわかった。「…みみひげしっぽちゃん?」

この人が、父の「元カノ」。
父の言うところの「ガールフレンド(父曰く、婆ールフレンド)」、花さんだ。

花さんは、父の母、わたしの祖母に、面差しがよく似ている。
一瞬、「ええと、親戚の誰かだったっけ?」と思ったほど。
「〇〇(わたしの旧姓)という声が聞こえたから、ひょっとしたらと思ったんだけれど…」
柔らかな声の調子が耳に心地よい。

花さんの提げている大荷物は、父の着替えや身の回りの品々だった。
父は、母を早く亡くしてから独り暮らし。84歳になった。


 14年前の4月、69歳の誕生日の三日後、母が亡くなった。

葬儀を終え、その後のさまざまな手続きも終えて自宅に帰ったが、独りになった父のことを気にかけながらも、遠くにいては、毎晩電話をするくらいしかできない毎日が過ぎていく。

数か月後、弟から連絡があった。
「お父さん、昔の彼女と再会したらしいで」。
…寝耳に水である。

 弟の話によると、父はどうやら地元の地方ニュースでその人を見かけたらしい。
子ども相手のイベントでボランティアをしていたところが映ったとかで、テレビ局に問い合わせ、再会を果たしたという。
すごい執念。
母に出会う前に付き合っていた女性らしく(だとすると、大学生時代?)、ずっと独身と聞いた。

驚いたけれど、父と再婚するというわけでなし、独身同士、わたしからわざわざ父に問いただすようなことでもないだろう。


その年の夏休み、わたしひとりで帰省した。

思いのほか元気そうな様子に安心していたら、えらい真剣な面持ちで、父は「おまえに話がある」という。
きたな。
自宅のすぐ近くに、父と同年代であろう気のいい姉妹がやっている喫茶店がある。
父はこの店を「自分の書斎」と呼んで、本を読んだり手紙を書いたり短歌を作ったりしている。ここに誘われ、差し向かいでおもむろに父は話し始めた。

「(弟)から聞いとるかもしれんけど、お父さん、お世話になっとる人がおる。まじめな付き合いや。もちろんお母さんと『重なった』りしてない。毎日おかあさんのお墓参りもしとる…」

料理のレシピを教わることもあれば、体調が悪い時にお世話になったこともあるという。毎日のように電話で話してもいるらしい。「何かあったら病院にもつれて行くから」とも言ってくれているとか…。

弟から聞いた話のとおり、独身をとおし、小学校教師として定年まで勤め上げ、今は百歳近いお母さまをひとりで面倒みているのだそうだ。おそらく、母と同じくらいの歳だろう。
娘としては正直なところ、複雑な部分はある。母が亡くなってまだ半年も経っていない。
が、ひとりになった父が、広すぎる家で、ぼんやり毎日テレビのお守りばかりしているよりずっといいと思った(実際には、父は地元のコーラスグループを掛け持ちしたり、短歌の会の世話役をしたりで多忙な毎日だった)。

死者は生者を煩わすべからず。
旧知の女性(まあ要するに「元カノ」だ)とのコミュニケーションで、きっと父の生活に張りが出るだろう。それに何より、何かあったときのことを考えると、いつも父のことを気にかけてくれる人がいるというのは本当に心強い…心強いだけでなく心苦しいけれども、遠くの娘より、近くの「他人」だ。

「お父さん、思うところがないわけじゃないけど、わたしは、生きてる人のほうがずっと大事やと思う」。父は本当に、安堵したようだった。

 なんのやましいこともなかったのだけれど、わたしは何となく、この話をオットにできないままでいた。
が、ある日。通勤電車に揺られながら、やっぱりなんとなく、話すことになった。
「あのなぁ、実は…」。
かくかく、しかじか。

黙って聞いていたオットは、にやっと笑って言った。
「(弟)くん、おとーさんに先越されたな」。
…そう、弟はこのころバツイチで、隣県で独り暮らしをしており、母の葬儀で親戚中に、「早く再婚して、おかーさんを安心させてあげなさい!!!」と言われていたのだ。


しばらくして、弟に恋人ができたと聞いた。父は花さんを連れて、弟に会いに行ったのだという。しかも弟の彼女と4人で、スナックで一緒に呑んだ…のだそうだ。
椅子から転げ落ちそうになった。
…ダブルデートやん。
わたしはまだ、弟の彼女にも、花さんにも、会ったことがないというのに。 

(続く)


さーて、来週のみみひげしっぽ通信(第17号)は?
 
【特別編】 父の「元カノ」②
 
 の、長編一本勝負でお届けします。どうぞ、お楽しみに。

【今週のしっぽの先】
カフェのショーケースに、コンビニに、
栗のお菓子が並び始めました。
毎年ワクワクする季節なのですが…ちょっとそんな気になれない残暑。
いも・くり・なんきん、どれに一票入れますか?
…そんなの、決められなーい!!

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▶︎ hello.mimihige@gmail.com

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