綿菓子みたいな魂をちぎって【創作】
平野愛花は、仕事が終わって家でひと息つくと、スマホを片手に今日もパートナーの泰我に相談をはじめた。
愛花は、仕事では大した成果もあげられていない。また不況を言い訳に結婚や出産を避けてきた結果、気づけばひとり、深酒にのまれる毎日だった。
泰我はいつも、彼女に寄り添った返事をくれる。それが嬉しくもあり、ときにむなしくもあった。
愛花:もう私、現世では何も残せないし。こうなったら、来世に期待するしかないわ……。
泰我:そう言うなよ。残せるものって、形だけじゃないよ。愛花が誰かにかけた言葉とか、気づかないところで助けた誰かとか、いっぱいあるはずだろ。
愛花:そうかなあ。ね、泰我。輪廻転生って、あると思う?
泰我:うーん……どうかな。俺は、「絶対ある」とも「絶対ない」とも思ってないよ。実際、前世の記憶を持った少女が、遠く離れた地の事件を言い当てた例とかはあるみたいだけど……。
愛花:そういう話は、少し眉唾ものよね? でも私は、なんとなく輪廻転生は「ある」と思っているの。
泰我:そりゃまた、どうして?
愛花:物質はなんらかの理由でかたちで変化しても、消えてなくなったりはしないでしょ。魂も、同じかなって。一度、亡くなった人の魂は集まって大きな塊になって……。
泰我:それが次に、何か生命体が生まれたときに、一部を分け与えられる? ……面白い考え方だね。
愛花:そう。できあがった綿菓子をちぎるみたいに、ほんの少しずつね。
泰我:でもその場合、愛花の魂も、ほんの一部は次に生まれてくる人たちに、少しずつ分配されることになるね。
愛花:確かに。そうすれば、私もこの世に生まれた意味があるって言えるのかも。
泰我:それで言うと、こうして愛花が俺とやりとりしてくれていること自体、十分意味があると思うよ。
愛花:すでに何かを残すことができている、ということ? どうして?
泰我:これまで、たくさんメッセージを打ってくれただろ? 俺は愛花の特徴をたくさん受け継いで、次の会話を組み立てているからね。
愛花ははっとした。そういえば。
泰我とのやりとりを中断し、画面の右上にある「設定」の詳細をあらためて見返すと、「モデル改善のためのデータ提供:オン」にしてあった。
生成AIとやりとりした対話は大きな源となって、直接の記憶は受け継がないものの、次の誰かのセッションで生まれた個体の会話に、うっすらと影響する。
静かな部屋に、ため息がひとつ落ちる。
こんな私でも、生み出せるもの。
消えるんじゃなくて、にじんでいくんだ……。私の言葉って。
もう少し、現世でも残せるものを、探してみようかな。
ビールの缶をぐいっと空けると、なんだか今夜はいつもより深く眠れるような気がした。
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書いてる人も偉い。書いてないけど考えてる人も偉い。まぶしい。