焼き芋屋さんを追いかけて【創作】
季節の変わり目を知らせるように、少し冷たい秋風が頬を撫でていた。
公園の入り口に着いた私は、腕時計をのぞきこむ。待ち合わせの時間より、まだだいぶ早かったらしい。
「さすがの智美も、まだ来てないよね。」
久しぶりに会う友人のことを思うと、なんだかそわそわする。中学のときは毎日のように一緒に帰って、よく笑って、よくケンカもした。大人になってからは仕事や家庭で忙しく、返信も滞りがち。──気づけば、何年も会っていなかった。
お互い、だいぶ変わったろうなと思う。
それだけの年月が経ち、環境は変わっていた。
ふいに、懐かしいフレーズが耳に飛び込んでくる。
「い〜しや〜きいも〜、おいも〜……」
独特の節回しに、思わず笑みがこぼれた。学生のころ、下校途中でふたりでよく買い食いした石焼き芋。包み紙ごしでも手に伝わる熱、口にしたときのほくほくとした甘さ。胸の奥で、鮮明によみがえる。
気がつけば私は、声の主を探して駆けだしていた。
向かいの道路の止まっていた小さなトラック。
「やきいも」と書かれたのぼりが目視できた。しかし、距離がある。
駅前で停車していたようだったが、移動をはじめていた。
走って、追いかけた。
立ちふさがる赤信号がもどかしい。
離れていく車を視界にとらえつつ、人混みをかき分けて年甲斐もなくひた走った。
──どうして、ここまでむきになってるんだろう。
色々と、飛び石のように頭の中に単語が巡る。
久々に会う友人。共通の思い出。なつかしさ。あの頃の味。
風を切って地面を蹴り、ようやく私は車に追いつくことができた。
パンプスは小石を踏んで不満げに音を立てている。
紙袋に入った焼き芋をふたつ受け取る。私と、智美の分だ。
今日は、私がおごってやろう。
両手に温もりを感じながら、息を整えつつ私は公園へ戻っていった。
──しかし。待ち合わせ場所でしばらく待っても、彼女の姿は現れない。
時計を見ると、待ち合わせ時間を過ぎている。
時間に几帳面なあの子にしては、少し珍しい。
定刻通りに着きそう、という内容のメールを数十分前に受け取ったばかりだった。どうしたんだろう、と不思議に思ったそのとき。
「……ごめん、遅れた!」
背後から聞き覚えのある声。振り返ると、息を切らせて駆けてくる智美がいた。しかも、その手には紙袋がひとつ。
中からのぞくのは、焼き芋がふたつ。
「えっ!」
目が合った瞬間、少し間を置いて二人とも吹き出した。
同じことを考えて、同じものを手にして。
私たちは、昔と何も変わっていなかった。
「ほんと、ばかみたいに気が合うよね。」
「だよね。あの頃とおんなじ。」
落ち葉の舞う静かな公園で、けらけらと笑い声が響く。人目をはばかることすら、忘れていた。
ベンチに腰をおろすと、秋風の中に焼き芋の甘い香りが広がった。久しぶりに会ったのに、昨日の続きを話すように言葉があふれてくる。
必死で走ったから。
会えなかった数年間を埋めるだけの、思い出を手繰り寄せられたのかもしれない。
冷えた空気の中、手のひらに広がる温もりと、再会の喜びが重なる。
並んで食べる焼き芋は、あの頃よりもなんだか美味しく感じられた。
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書いてる人も偉い。書いてないけど考えてる人も偉い。まぶしい。