ブーケに乾杯【創作】
十何年来の友人の結婚式に招かれた。
華やかな会場、整った髪に光る笑顔、きらめくシャンデリア。席に着くと、胸の奥は高鳴りつつも、小さくざわついてもいた。
祝福の気持ちは確かにある。彼女の幸せそうな表情にも、心と頬が緩む。
だけど。
空気に紛れて漂う「幸せのおすそわけ」の匂いは、どこか居心地が悪い。
* * *
そして、ブーケトスの時間がやってきた。
新婦が花を高く掲げ、笑顔で「キャッチしてください!」と声をあげる。周囲の女性たちは楽しげに手を伸ばし、歓声があがる。
私も形式上は立ち上がる。だが、前向きな気持ちはそこにない。受け取りたいとも、次に結婚できるというジンクスを信じたいとも思わない。ただ、眺めるだけで十分だった。
あのブーケをつかむことに、どこか卑屈な匂いを感じてしまうのだ。ひねくれてる……なんて、そんなことはわかってる。
幸せが有り余っている人なら、分けてあげようと思うものなのかもしれない。でも、わたしは人に恵んでもらおうとは思わない。自分でつかみとるしかないものだと信じたい。
...…そう考えると、目の前で歓声をあげる友人たちが少し遠い存在に見える。楽しそうで、幸せそうで。でも、それでいて違和感があって、どこか手が届かない。
式のあいだ、何度か心の中でつぶやいた。
──たぶん、私の居場所は……あそこには、ないのよね。
もちろん、友人が嫌いなわけじゃない。心から祝福しているし、笑顔を向けられることも嬉しい。でも、自分には逆立ちしたって似合わない。
白いドレスやハイヒール、幸せを振りまく華やかな光景。私はそこに立つより、少し離れた場所で静かに見ている方がしっくりくる。
親からはせっつかれる。「そろそろ結婚は?」と。心配も期待も、愛情も、わかっている。
それでも、私にとっての幸せは、きっと別の形をしているのだと思う。
人には人の、私には私の幸せがある。結婚式の喧騒の中で、そう思った。
* * *
夜になり、正装を脱ぎ捨てる。
ビールを手に取って、ゆっくりと缶を開けた。プシュッという小気味よい音が、胸の奥のざわめきを吹き払う。
火照った身体に冷たい液体が流れ込み、静かな満足感が広がる。小さな安堵、誰にも邪魔されない瞬間の心地よさ。
声にならない声とともに、缶から口を離して、ひと息つく。
──これでいい。
華やかな舞台がなくても。祝福される花束がなくても。
私の幸せは、静かにひとりで、ビールを傾ける夜の中にある。それで十分だと思った。
「今日は、もう一本……いいかな。」
友人の笑顔を思い出しながら、私はそっと、自分の幸せの形を抱きしめた。
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書いてる人も偉い。書いてないけど考えてる人も偉い。まぶしい。