私のスキマ時間【創作】
電車を待つ三分、昼休みの十分、寝る前の五分。
「スキマ時間を活用しましょう」というキャッチフレーズが、いつも頭にこびりついている。
ポイントアプリを開いて動画を流し、クーポンをチェックし、英単語をひとつ暗記する。
スマホの通知やネットの広告は、そのわずかな余白さえ見逃さず、私の生活に割り込んでくる。
ほんの少しでも「有効活用」できないと、時間を捨ててしまうことになるよ、と言われているような気がした。
「今日のクーポンが届いています」
「朝のスキマ時間で英単語!」
「広告を30秒見るとポイント獲得」
「歩数が目標を達成しました!」
気づけば、スマホを開いている。
何も考えずに、言われた通り動画を流し、タップし、スワイプする。
「何かしている感覚」だけが、手元に残る。
ぼんやり過ごすと「無駄にした」と思わされるこの頃、何もしていない時間は、どこに行ってしまったのだろう。
なぜ「無駄にしない」ための時間に、追われる感覚になっているんだろう。
ホームのベンチに腰を下ろす。
いつものようにスマホを開いたが、アプリは開かずに手を止めた。
震える通知。
「残り1時間の限定セール」
「今日の目標まであと1歩!」
ああ、うるさい。
私はすべての通知をオフにして、スマホをしまった。
あえて、なにもしない。
ただ、寡黙に座る。
風が頬をかすめる。
子どもたちの笑い声が遠くから届く。
誰かがコーヒーを飲む音、誰かがページをめくる音。
鳥の羽音さえ、久々に耳にした気がした。
よかった。
この世界では、通知されない音が、まだ私にも届く。
電車がホームに滑り込んでくる。
立ち上がるそのとき、ふと、ひとつ息が軽くなった気がした。
時間を無理に活用しなくてもいい。
せめて、私の余白の部分くらいは、私のままでいたい。
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