信号と誤解【創作】
放課後、文化祭の片づけで荷物を抱えながら歩く。
男子が「持つよ」と軽く言って、真由の手から段ボールをひょいと取った。
その自然さに、お礼が口をついて出そうになるけれど、喉の奥で言葉が引っかかった。
──本当に伝えたい「ありがとう」は、違う。
準備のとき、先生に頭を下げてくれたこと。
クラスで意見がまとまらなかったとき、重苦しい緊張感をさりげなくやわらげてくれたこと。
そんなことのひとつひとつが、今日の成功につながっている。
でも、いざ言葉にしようとすると、胸の奥が熱くなって、言葉が簡単には出てこない。
信号が赤に変わり、二人並んで立ち止まる。
青になる前に、真由は少し息を吸い、勇気を振り絞って声を出した。
「ありがとう。」
彼は一瞬、少し驚いたような顔をしたあと、笑う。
「全然。大丈夫だよ。」
段ボールを少し持ち上げて、平然と返すその言葉と、やわらかい表情。
──本当は、わかってくれてた? それとも……。
彼の横顔がふっと曇ったようにも、照れたようにも見える。
真由の言い直すタイミングを奪うように、信号がぱっとその色を変えた。
青にせかされて、二人は歩き出す。
その瞬間、彼と戸惑うような視線が交差し、思わず顔をそらした。
信号機からの鳥の声の音響と、小さい風が、体を通り抜けていく。
少し痛む胸と、言葉にならないもどかしさが、真由の中でくすぶり続けていた。
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書いてる人も偉い。書いてないけど考えてる人も偉い。まぶしい。