影法師の設計図【創作】
夕暮れどきの公園で、ぼくは自分の影を見ていた。けれど、なんだか動きがおかしい。
自分自身と、少し違った動きをしている。
「きみはだれ? ぼくの影とは違う。」
声に驚いた影が、地面で少し跳ねる。そして、こちらを振り替えるように動いた。
「おっと、ばれてしまったか。」
黒い影から、くりくりとした白玉がふたつ覗く。アニメのキャラクターのような、可愛らしい見た目をしていた。
「ぼくは影の、『かげえもん』。きみみたいな小さい子は、ちょこまか動くから、精一杯真似をしていたが、だめだったようだ。」
かげえもんは、優しい大人の男の人の声だったので、ぼくは少し安心した。
「かげえもんは何をしていたの。」
「なに、きみの影に入って、影の設計図を作っていたのさ。」
「設計図?」
影に、ロボットみたいな設計図があるという話は、聞いたことがなかった。
「そう。影を作るには設計図がいる。全部、ぼくが設計したから、影ができるんだよ。」
かげえもんは、地面にへばりついたまま、えへんと鼻をならした。
「うそー。ほんとかなあ。」
「本当だとも。ためしに、きみにきれいな影を見せてあげようか。──それっ。」
かげえもんが、パチッと指をならす音を出した。
──すると、公園の街灯にぱっと明かりが灯る。
そして、ジャングルジムのうしろには細やかな模様の影が現れた。線と線が交わって、たしかにきれいだ。
「ほらね。こんなもんさ。」
自慢げに言うかげえもん。
ぼくは、少しだけ彼を見直した。
「もっと、すごい影も作ったことあるの?」
「そうだなあ……。せっかくだし、見せてあげようか。」
かげえもんが再びパチッと音をならすと、ぼくの体はふわりと宙に浮かび上がった。
「わっ。空をとんだ。」
かげえもんも、続けて地面からぺりぺりと剥がれる。黒い人型の画用紙みたいになって、同じように宙に浮いた。
「少しだけ、都会の方までとんでいこう。」
かげえもんに連れられて、ビルの立ち並ぶ都市の中心までとんできた。全身に風を浴びて、気持ちいい。不思議と怖くなかった。
「──ほら、このビルの影。これは大したもんだろう。」
高層ビルが、見渡す限りの家々、その一帯に影をつくっていた。
「これはすごいや。
さすがに、もうこれ以上大きな影は作れないよね。」
「そんなことはないさ。」
ふっと不適に笑うとかげえもんは続ける。
「ほら、そろそろ、いい頃合いだ……。地球さん、太陽が隠れてしまう時間になったよ。」
──さっきまで空を飛んでいたはずなのに。いつの間にか──かげえもんとぼくは、宇宙にまで飛び上がって、遠くから地球を見下ろしていた。
地球が、太陽に背を向けて、ぼくたちのいた街……いや、国全体を抱える。
その部分には大きな影──つまり「夜」ができあがっていた。
「それでは、おやすみなさい。いい夢を。」
かげえもんがそう言うと、ぼくはそのままひゅーっと落ちてゆき、影のなかに吸い込まれていった。
──そして、目が覚めると。
いつもの朝だった。
「なんだ、やっぱり夢だったんだ。」
ぼくは布団の上で、しばらく天井を見つめた。
そして、なにも言わずに、そっと起きあがった。
いつも通りに朝ごはんを食べて、小学校へ行く準備をする。
外に出ると、いい天気。
まぶしい太陽から目を背けると、うしろにはぼくの影ができている。
──夢だったけど……。
昨日見たことを思い出す。
「おはよう。」
影に向かってなんとなく、挨拶をする。
そしてぼくは、いつもの通学路を駆けていった。
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