審判と神職【創作】
穢れたら、秩序が乱れる。穢れたら、祓えばいい。わかりにくいし、合理的じゃない。
悪いことをしたら、罰されて終わり。その考え方の方が、よほど健全で性に合う。大神は昔からそう思っていた。
対して白石は、堅苦しいのが嫌いだった。
誰が見ても同じ基準。明文化された規定。程度に応じた、警告、処分、退場。
細かいところまで見ずに、曖昧な裁定でごまかして生きていくのが楽じゃないかと考えていた。
* * *
今日も、彼らは連れだってゲームセンターに来ていた。制服でさえなければ、そうそう声がかかることもない。店内のうるさい音には、とっくに耳が慣れていた。
回数をこなさなければ当たりがこない確率機のクレーンゲームよりは、レトロなビデオゲームの類を好んで遊んだ。時間つぶしに使われたのは、主にベルトスクロールアクションや落ちものパズルゲームだ。
もっぱら、金を出すのは大神の方だった。彼は、神社の息子だ。親から不自由させまいと同世代の中でも小遣いが多めに与えられていた。白石の家では、くだらない娯楽に使うだろうからと、月の小遣いなどは親から渡されていなかった。
「いつも、悪いな。」
「別にいいよ。漫画貸してくれてるだろ。」
筐体のレバーを転がしながら、白石は画面を見つめていた。漫画は、セット売りのかたまりの状態のまま、ヤマネ書店で盗んだものだった。
金がない、働けないとなれば、とるべき手段は限られていた。厳格な親にばれようものなら、二度と敷居はまたげまい。だが、そうなったらそうなったで、厄介ごとから解放されるメリットの方も大きそうだ。
「お前の方も家のこと、大変なんじゃねーの。」
「ああ、まあ正月は忙しかった。朝五時とかから立ってた。」
ひえ、と言いながらも、視線は画面から外さない。それは、冷静に話す大神の方も同じだった。音の渦巻く空間の中でも、隣から不規則に響く、違うタイミングでカチャカチャいうレバーの音は、不思議と聞き取れた。
「ま、夏の例祭まではなんもないよ。」
「あー、またお守り売ったりすんの?」
「お守りは売るんじゃなくて授与……。」
大神が言いかけて、やめる。
「参拝客からすりゃ、一緒か。親はいちいちうるせーけど。でも。」
ふたりで協力して、2ステージ目のボスを倒した場面で、大神は視線だけを白石の方に流した。顔の向きは、そのままで。
「夏は、お前の父ちゃんだって忙しいんだろ。またテレビ出んの?」
「知らね。選ばれたら出るんじゃね。」
白石は、興味なさげに答えた。
「甲子園の審判も、普段はフツーの会社員とかだよ。」
選ばれる。それがすごいことなのかは、わからない。
「ふーん。」
そう言いながら、大神はさっき崩した百円玉をじゃらじゃらと広げて、半分差し出した。
「アウトー! って叫んでた親父さん、けっこう格好よかったけどな。」
白石は、父親の姿を思い出した。大股広げて、叫んでるのなんて、どこが格好いいんだか。そう思いながらも、差し出された小銭はしっかり受け取る。それでも、気持ち半分より少なめで手に取った。
* * *
店を出ると、さっきまでの音が嘘みたいに途切れて、夜の空気がやけに静かに感じられた。
「結局、あのステージは無理だったな。」
白石が言うと、大神は軽く返す。
「次は行けるだろ。」
どっちからともなく、また来る前提の話し方だった。カラスが、合いの手を入れるようにここでふたつ鳴いた。
「最後の一限、丸ごと飛ばしたな。」
次に口を切ったのは大神だった。踏み越えた授業の分、ノートの余白が増えることを気にした言い方だった。
「別によかっただろ。今日は担任も終礼いなかったし。」
けれど、その返事に重みはない。ポケットの軽さと同じような調子で、白石はそう言った。
駅に向かう分かれ道で、足が少しだけ緩む。
「じゃあな。」
先に言ったのは白石の方だった。今日は、いつもより遅いこともあって、ヤマネ書店の方には足を向けなかった。
「うす。」
大神は白石の言葉にうなずいて、片手を挙げた。もう片方の手で、ポケットの中の使わなかった小銭を指で弾いた。なんとなく、賽銭箱のことを思い出していた。
振り返ることはなかった。明日の約束もしていない。それでも、次に会う場所だけは、なんとなく決まっている気がした。
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書いてる人も偉い。書いてないけど考えてる人も偉い。まぶしい。