粒は何度でも【創作】
机の上には真っ白な原稿用紙と、明かりを灯したままのパソコンの画面。
眠気でぼんやりする視界に、その光がやけにまぶしく映る。
締め切りは眼前に迫っているのに、頭は空回りしていた。
——まいったな。ネタが、浮かばない...…。
ため息をついたそのとき、宅配便で実家からとうもろこしが箱いっぱいに届いた。一人暮らし用の冷蔵庫が、あっという間に埋め尽くされる。
気分転換に炊き込みご飯でもしようと、とうもろこし一本をまな板に置く。包丁を立て、粒をそぎ落とし始める。黄色い粒が、ころころと転がり落ちる。
——人のアイデアを削り出すのも、これに似ているのかもしれない。
頭の中に並んだ粒ひとつひとつを切り出して、作品という皿に並べていく。でも、やがてすべてを取り尽くしてしまったら? つるりとした芯だけが残り、もう何も出せなくなるのだろうか。
...…いや、今まさに芯だけの状態だったら、次どころの話ではない。
小説家など、駆け出しのころは出版社に食わせてもらっているようなものだ。だが、筆は遅々として進まない。
これからが、ここからが自分の大事な時期だと、気負えば気負うほどに。
胸の奥に冷たい不安が走った。作家として生きることは、とうもろこしを削り続けることなのか。芯になった自分に価値は残るのか。
そう考えながらも、米と混ぜて炊飯器の蓋を閉じる。
しばらくして。
部屋いっぱいに立ちのぼる甘い香りに、心がほどけていく。
椅子に背中を預けていられず、思わず立ち上がる。
食器棚から茶碗を取り出し、しゃもじを持って炊飯器の前にしゃがみ込んだ。
蓋を開けると、米の白にとうもろこしの黄色が、湯気の中輝いていた。
炊きあがったご飯を口に運ぶと、ほろりと甘く、歯ごたえはやわらかい。
——うまい。
思わず笑みがこぼれる。
素朴ながら、口に運ぶたび、もう一口が欲しくなるやさしい味。
母親にお礼のメッセージを打っていて、ふと思った。
——そういえば、とうもろこしは去年も送ってもらったんだっけ。
とうもろこしは、食べられてもまた畑から育って届く。粒は減っていくばかりではなく、毎年のように新しい命を抱えてやってくる。
人の頭の中もきっと同じだ。書けば空っぽになるのではなく、次の季節にはまた別の粒が育つ。
湯気に目を細めながら、ようやく胸のつかえが軽くなっていく。
空になった茶碗を流しに置き、もう一度、椅子に腰かける。
——芯が見えても、また次が育つ。
なら今はただ、この一粒を、紡ぎ出せばいい。
そう思い、ゆっくりと、再び画面に向き直る。
パソコンの白い画面も、どこかやさしい色に見えた。
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書いてる人も偉い。書いてないけど考えてる人も偉い。まぶしい。