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半分の技術【創作】

コーヒーの香りとインクの匂いが微かに混じる空間。香りの静けさを破るように、休憩室から声が聞こえてくる。

「うちの奥さん、肉団子の数がいつも合わないんですよ。」

よく通る声。愚痴をこぼすのは、足立拓也だ。

「10個あっても、大きさがバラバラで、皿に6個と4個になっちゃうんです。もっとちゃんと分ければいいのに。」

周囲の同僚たちは笑って聞き流すが、心のどこかで「また始まったな」と思った。

彼の言動はときに、私のどこかをざわつかせる。きっと彼にとって何気ないひと言。それでもふいに、彼の価値観や決めつけのような響きが、胸の奥に小さなとげのような違和感を残していく。

拓也はやる気もあり、努力もできる新人だ。しかし、少々ズレているところがあった。残業が多くても平然と帰るし、自分のミスでない限り顧客にも謝らない。

私の座る事務室のデスクでは、空調の微かな風が書類の端をはたはたと揺らしていた。

拓也の、共感能力が少し足りない部分について、本人のためにも、いつか指摘してやらないといけないな、という話は仲間うちでも出ていた。

だが、あまりきつく叱責するような真似はしたくない。この職場では、短期間で新人が二度連続で辞めてしまっていた。

たまたま、体調やリズムの関係で退職となったのであれば仕方がない。

ただ、もしこの職場が時代の流れに合わないやり方を強いているとすれば、それも問題だ。人事も含めて社員や新人への教育については議論の余地がある、と検討が進められていた矢先だった。

壁に掛かる時計の針が静かに進み、休憩室から出てきた拓也を呼び止める声があった。

「おおい、ちょっと、手伝ってくれるか。」

低く、落ち着いた声。河合さんが、LANケーブルのたくさん入ったかごを持って近づいてきた。彼は老年の契約社員だ。淡々とそつなく作業をこなすその実力から、みなに信頼されていた。

河合さんが拓哉に、そっと問いかける。

「悪いが、こいつらを──ちょうど半分に分けられるか?」

かごの中のケーブルは他の技術者によって乱雑にしまわれており、本数も長さも一見では把握しきれないものだった。輪がほどけたもの、固く結ばれたままのものが雑然と押し込まれている。

拓也は即答した。

「使えさえすればいいので、半分ぴったりに揃えて分ける必要はないですよね?」

河合さんはにっこり笑う。

「そうだな。じゃあ、肉団子も、量が大体半分くらいなら数が違っても問題ないな。」

拓也は肩をすくめ、少し考える。

「そう、ですね……」

ふたりはケーブルを整えながら、静かに作業を続けていた。拓也の肩越しに河合さんの手元を覗いてみると、雑然としたケーブルが順序立てて整っていく。手際の良さに、私の心も自然と落ち着いた。

話の流れで、今度河合さんがキットをつかって拓哉に自作ケーブルの作り方を教えてあげることになっていた。

拓也自身も、「LANケーブル自作とか、やったことないっす」と、肩を並べて背中で楽しそうに話していた。

角の立たない指摘で人を導くことの巧みさに、さすがだな、と私は感心する。

私は、向き合う前に、半歩ほど身を退いていたように思う。自分もこうやって、人を少しずつ理解していかなくては、と心に刻んだ秋の午後だった。

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財布野紐ゆるみ 書いてる人も偉い。書いてないけど考えてる人も偉い。まぶしい。