祈りをもう一度【創作】
水面を割って、ひとつの銅貨が落ちてきた。
それは今の世ではもう誰も使わない、旧時代のもの。
青く錆びながらも、どこか温かい気配を帯びている。
泉の精は、長い沈黙からひととき目を覚ます。
硬貨が触れた瞬間、忘れかけていた呼吸が胸に蘇った。
──かつて、どれほど多くの祈りが私に注がれていたことか。
愛の成就、旅の安全、子の健康。
願いのひとつひとつが泉に力を与え、それを形にすることができた。
だが今、人々は祈らない。
願いを口にしても、この泉に託すことはない。
力は薄れ、声も届かず、ただ水底で眠るばかりだった。
それでも、この銅貨は──過去の縁を、わずかに結んでくれた。
もう一度、息をすることを許してくれた。
精は静かに瞼を閉じ、銅貨を抱えこんだ。
「かつて願いを叶えた私が、いまは願いを乞うとはな……」
水面には、誰の耳にも届かぬ溜息だけが溶けていった。
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書いてる人も偉い。書いてないけど考えてる人も偉い。まぶしい。