環境依存【創作】
「すごいねえ、Pythonでここまで形にしたの?」
佐藤は手元の書類から顔を上げ、応募者のモニターの画面に視線を移す。
データを解析し、グラフまで描画するプログラム。一次解析の結果から二次解析への流れもスムーズだ。
事前に目を通した履歴書には、前の会社では待遇に不満があり退職したと記されている。採用に不安があったが、転職までの間にプログラミングのスキルを高めたともある。ここまでのコードを仕上げられるのなら、間違いなく即戦力だ。
「はい。自分で書きました。」
やや緊張気味ながら、自信を持ったその返答に、佐藤はさらに期待を膨らませる。面接応募者が持参したMacbookのAppleロゴも輝いて見えた。
「いいね。それで、この実装ってどういう環境で動くの?」
「えっと……普通のパソコンで大丈夫です。」
佐藤は一瞬、視線を鋭くした。
質問が不明瞭だったかもしれない。
間を置いて、再度質問を投げかける。
「普通って、具体的にはどうなんだい。OSや依存環境のことだが。やはり、Linuxか?」
応募者は一瞬きょとんとして、しばらく考えた後に答えた。
「えっと……『黒い画面』ですね。すみません、不勉強で。リナックスというのは何でしょうか?」
会議室に広がる、一瞬の沈黙。
「じゃあ、このコードを書いたときは何のエディターを使ったんだ?」
候補者は視線を泳がせ、少し戸惑いながら答える。
「えっと……その……。エディター、というのは...…」
背筋に冷たいものが走った。完成度の高いコードと、本人の理解の落差。コードを編集するなら何らかのエディターは必要のはずだが……。
ペンを書類に落とし、顎に手をやる。モニターに映るグラフを眺め、ようやく佐藤は気づく。
この成果は、すべて「大規模言語モデル」に丸投げして出てきた産物だ。
──「こういうものが作りたい」。
それさえ自然言語で入力すれば、次から次へとソリューションが湧いて出てくる。
プログラムは動く。だが、理解して動かす人間はそこにいない。
応募者が退室したあと、佐藤は窓の外を見て考えていた。
──時代は変わった。
バグやエラーを繰り返してコードを修正する、泥臭い作業を延々やるのがエンジニアだ。
私が入社した頃、先輩が何度も口にしていた言葉だ。
時代に応じて、見直すべきことは色々とある。人事の採用の基準も。社員を育てる教育も。
コードが適切な機械環境でなければ動かないように。人を取り巻く環境もまた、アップデートされてゆくべきものなのだろう。
面接の結果についての、上役への報告は──さて、どうしたものか。
デスクのパソコンのファンの音が、静かな室内にカタカタと響く。佐藤はゆっくりとモニターの電源を落とし、会議室を後にした。
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書いてる人も偉い。書いてないけど考えてる人も偉い。まぶしい。